事件はすぐに解決した。
マンションの入口の防犯カメラに死んだ女性の後ろをナニ喰わぬ顔でついていく男の姿が映っていた。
『自分はマンションの住民だ』といった感じで適当な郵便受けを覗き、そのまま女性と一緒にエレベーターに乗り込んだ。
各階のエレベーターホールに設置された防犯カメラには5階で女性だけが降りたのが確認出来た。
男は一つ上の6階で降り、駆け足で階段を降り、女性の部屋を確認したようだ。
その後は薬師寺涼子の見立て通りだろう。
防犯カメラの映像から20代後半の男が捜査線上に上がり、裏が取れ今朝男の家に強制捜査が入り自白した。
「な〜んだ……。やっぱりつまんない……。」
薬師寺涼子が呟いた。
「何言ってるんだ。ホシが逮捕されたんだ。これ程警察にとって喜ばしいことはないだろう?」
「平凡過ぎるのよ、日本は。そう思いません?泉田センパイ?」
彼女はそう言ってオレの頬をツンとつついた。
「ね、センパイ?今度はいつ彼女さんとデートなの?」
「や、薬師寺くんっ!何度も言ってるが、今は勤務中だぞっ!?プライベートなことには答えるつもりはないっ!!」
「そ。せっかくお世話になっているお礼をしようと思っただけなのに……。」
彼女はヨヨヨと、か弱く泣く真似をした。
同僚の視線が痛かった……。
「や、薬師寺くんっ!!わ、わ、分ったっ!分かったから止めてくれっ!!こ、今週の土日は丸々予定がない……。」
「まぁ!彼女さんがいるのに週末はデートじゃないんですの!?」
「む、向こうにも都合ってもんがあるんだよっ!」
「センパイ?それって……二股掛けられたりっていうんじゃありません?」
「うっ……。」
実際のところ、最近オレの休みの日に何かと彼女は予定を入れていた。
正直二股を疑ったこともある。
が、彼女の祖父が認知症で、祖父と同居している彼女の両親……特に母親が付きっきりでお世話をしているという。
だから彼女は休日には実家に帰って両親を休ませているのだと言う。
「か、彼女のおじいさんが認知症で介護に忙しいんだっ!」
「それって……ホントかしらねぇ?」
「………。」
頼むからこれ以上オレの懐疑心を煽るのは止めてくれ。
「だって……。『家族の介護』なんて絶好の言い訳じゃないですかぁ~。」
「………。」
「ねね?」
薬師寺涼子はまるで友達に話しかけるかのようにオレの右腕を引っ張り自分の顔を近づけた。
「センパイ、彼女さんとどうやって知り合ったの?」
「えっ?」
「いわゆる『合コン』ってやつ?」
「ち、違うっ!彼女とはいつも行く図書館で……。」
思わず大きな声を出してしまった。
刑事課の皆がこちらを見ていた。
「図書館?図書館で顔見知りになって交際に発展?ずいぶんと奥ゆかしいのね?」
「わ、悪いかっ!?」
実際いつも行く図書館で何度か顔を合わせるうちに自然に話をするようになり、なんとなく付き合うようになっていった。
「それ……。彼女さんはセンパイを『彼氏』と思ってないんじゃないの?」
「え……。」
「ただの都合のいい遊び相手くらいなんじゃないかしら?」
血の気が引いていく思いだったーー。