しょうまの視点③ | kaiブログ

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総体は、お互いが引退を賭けて戦う。

だから相手も必死だ。

それでも、チーム力では圧倒的にウチの方が強いし、周りもみんなそう言う。
「Y中なら余裕でしょ」

そうだ。
この初戦で弾みをつけて俺達は優勝を狙う。

Y中なんて眼中にない。

10番さえ抑えれば。

戦術通り、ウチは3人のマークで
kaiを抑えこんだ。

激しくぶつかり
3人で囲む。

複数マークに付く分、
他の相手選手がフリーになるが
ボールが渡ったとしても怖くない。
勝手にトラップミスしてくれるし
ボールを蹴り損なってくれる。
寄せれば慌ててミスしてくれる。

俺達は全員で声を掛け合った。

「10番つぶせ!」
「10番、10番つぶせ!」
「10番削れ!」

昨日のような動きはさせない。
ちゃんと偵察してミーティングした。
予定通り、kaiにボールが渡っても何もできない。


ただウチもなかなか点が取れない。

全体としては完全に押しているし
ボールも回せている。

シュートも何本も打つが
上手くゴールの枠に行かない。

前半は0ー0で終えた。

ハーフタイム。

ベンチで声を掛け合う。

「いいよいいよ!」
「この調子この調子な!」
「後半点取るぞ!」
「完全に押してるから!いけるぞ!」

手をバシバシ叩きながら気合を入れる。

後はウチが点を取るだけ。

「絶対勝つぞ!」

士気高く後半に入った。

ハーフタイムに再確認した通り
俺もkaiのマークに付く。

絶対通さない。
負けない。
絶対負けない。
フリーにさせない。


kaiがボールを持つ。
激しくぶつかり、
倒す。

笛が鳴った。

ファウルを取られる。

ドンマイドンマイ、
これくらいやらないと、な。

ファウルを恐れてたらサッカーなんかできない。
荒いと言われようが、止めるのが優先。
ペナルティエリア内じゃなければOKだ。


kaiがボールをセットする。

フリーキックなので
周りから敵味方の選手全員が遠ざけられる。



あ………

しまった。


フリーキックなら、
kaiは完全にフリーでボールを蹴れる。


いや、
センターサークル付近だから、
ゴールまでかなり距離がある。

ここからはさすがに狙えない。
ゴール前の味方にボールを上げるはずだ。

大丈夫、大丈夫。




kaiがボールを蹴った。

狙っていた。

ウチのキーパーがジャンプするくらいの絶妙なところに蹴り込んだ。

キャッチはできない。
両手で弾いたこぼれ球を
詰めていた相手が

ちょこんとゴールに入れた。

まさかの失点。

信じられない失点。

あれだけ押していたのに。

俺は手を叩きながら味方を鼓舞する。

「大丈夫大丈夫!」
「まだ時間残ってるぞ!」
「切り替えろ切り替えろ!」
「焦るな!焦るな!」

こんなところで終われない。
こんなところで終われないぞ。

俺達は優勝を狙ってるんだ。
それだけの準備と練習もしてきた。

絶対に俺達の方が練習してる。
ちくしょう。
点取ってくれ。
絶対に俺達の方が強いはずだ。

俺達は猛攻をしかけた。
1点取らなきゃ負ける。
1点。1点。

上手くいかない。

ちくしょう。

1点だよ、1点。

時間が経つにつれ
どうしても焦りがプレーに出る。

「焦るな!焦るなよ!」

俺は後ろから全員に声をかける。

みんな走ってくれ。
頼むから誰か点取ってくれ。

早く。早く。
早くしないと終わっちゃう。






試合終了のホイッスル。

相手応援団の大歓声。


俺達は全員
その場にうずくまった。

立てなかった。

両手をグラウンドについて、
号泣した。

あちこちで仲間の泣き声が聞こえる。

そんなわけない。
絶対俺達の方が強いはず。

でも、初戦で終わっ………た?

立てなかった。

顧問がグラウンドに入ってきて
1人1人立たせた。

ふらつきながら整列し、挨拶。

保護者達の前に移動し、整列。

頭を下げる。

ごめんなさい。



そして最後に、
Y中保護者達の前に移動して、整列。

キャプテンとして
「ありがとうございました」と号令をかけなきゃ。

仲間の嗚咽と涙をぬぐう姿に
俺も涙が止まらなくて
どうしてもありがとうございましたが
言えない。


それでも言わなきゃ終わらない。

俺は絞り出すような声で
ありがとうございましたを言った。

全員で頭を下げる。

Y中保護者達の大きな拍手。


頭が上げられない。

悔しくて悔しくて、悔しくて。

頭が上げられない。


その時大きな声がした。

「しょうま!頑張ったぞ!」


kaiのお父さんの声だった。


ちくしょう、うるせえ。


つづく