睦月かいの日常

過去に書いた作品や、日常で知り合ったクセのある方々との、ほのぼのとしたエピソードを書いてます。

4歳の息子がドラベ症候群と診断されたのを機に、専業主夫の傍らWebライターの仕事をしています。
長男、長女も別の病気で区指定の難病と診断されましたが4人の父親として奮闘中です。

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風が僕の頬を撫でる。

歩道橋の上からでは、車のヘッドライトが無数の魚のように見える。

何故、彼女はこの場所から飛び降りなければならなかったのだろうか?

彼女はそのささやかな19年という歳月を、どうして自らの手で終わらせなければならなかったのだろうか?

もちろん答えなどない。

当然のことながら、僕は結局のところ彼女ではないのだから・・・。

それでも僕はこう思わずにはいられなかった。

彼女は死んだのではなく、(まったく)別の場所に移動しただけなのだ、と。

僕は彼女の命日が来るたびに、一人で歩道橋の上から過ぎ去る車を――時間をただ眺めていた。

9年前と同じように、今日も無数の魚たちが僕の下を泳いでいる。

 

 

外は静かに雨だった。

穏やかな風が窓を揺らす。

その存在は僕のささやかな世界を脅かす。

日常と言う仕組まれた世界の中では、誰もが孤独を(不器用に)隠蔽しながら生きている。

 

街を哀しい色に染めようとする雨の微粒子が屋根をやり過ごし、僕の中に小さな水溜りを作ろうとしている。

僕には雨の微粒子を視覚的に捉えることなどできない。

雨はその存在を誰にも悟られることなく、我々の内側を静かに侵そうとしている。

雨の微粒子は我々の内側を(時間をかけて)ゆっくりと侵食していくのだ。

僕には拒むことなど出来ない。

もちろんそのことを拒むことなど誰にも出来ない。

我々に出来ることと言えば、そのことを受け入れ、順応していくことだけだった。

水溜りは何時しか大きな河になり、僕の本質的な生き方そのものを、その大きな流れによって、個人の力ではどうすることも出来ない処まで誘導しようとしているのか?

冷え切った身体は(僕の意思とは無関係に)誰かの意思に反映するかのように小刻みに震えている。

震えは僕の中枢神経を独立させることなどできない。その意思に翻弄されながら辛うじて自分を保ち続けなければならない。

触れることのできない曖昧な雨の存在を鈍く感じながら、バーボンのロックを(時間をかけて)ゆっくりと全身に染み込ませる。

すべての音がブラウン管の向こう側から聞こえてきているように感じるまで・・・。

「もうあんな仕事辞めたら」

女は安物のベッドの上に裸で横になったまま、面倒臭そうに口を開く。

少しだけ開いたカーテンの隙間から、侵入する車のヘッドライトが露出した女の淫らな肢体を照らす。

露出した女の肢体は卑猥な妄想すら僕に抱かせない。

僕はもう彼女のことを愛していないのか?

「ねぇ、聞いているの?」

女はテレビドラマの主人公のような悲しげな顔で、すぐに僕の内面的な部分に入ってこようとする。

相手を理解することによって、二人の関係が今よりも円滑になるのだ、と本気で信じていたのだろう。

僕には関係の修復を面倒なものにするだけにしか思えなかった。

「もちろん聞いているよ。でも、辞めたところで今よりもよくなるとは限らないだろ?」

「そうねぇ、でも今よりかは楽になるんじゃないのかしら?」

「いったい何が楽になるというのさ?」

「私にわかるわけがないでしょ? あなたはすぐに自分の気持ちに蓋をして、私が近づくことを――他人が近づくことを本能的な部分で恐れている。何をあなたはそんなに恐れているの?」

「君は怖くないのかい?」

僕の言葉は定まらないまま、冷え切った部屋に虚しく響く。

定まらない言葉には、定まらないなりの意味しか所有していない。

置き去りにされた言葉の渦は、今もこの部屋で、行き場を失くして彷徨い続ける。

僕は目を瞑り、言葉たちが放ち続ける負のエネルギーを拒み続けることしかできない。

そして拒むことを止めてしまったら、僕自身の存在そのものですら行き場を失くしてしまい、名も無き言葉たちのように彷徨い続けなければならないような気がしてならなかった。

 

続きはこちらから下矢印

 

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