P201-292終
「テス」読了。
読んでいる最中、自分の中に眠っていた感情があふれでて仕方がなかった。
物語の序盤から暗示されていた悲劇の結末。
ごくありふれた切ない恋愛小説であり、その進行は予定調和ですらあった。
しかし、小説という虚構の世界にもかかわらず、主人公は確かに存在していたし、主人公の人生がここにあった。
リアルな人物の造形と人と人との関係、その背景に広がる社会を丹念に描きながら、ぐいぐいと読者を引っ張るこの小説は、古典の中でも傑作と言っていいものだと思う。
読みごたえがあって面白かった。
小説の下巻では胸を痛めたり、ヒヤヒヤしながら読んでいたのだが、物語の終盤にあらわれた主人公と恋人がふたりで紡いだ風景は、それで主人公が救われたとはもちろん思えないし、幻のようなはかない幸福であったけれど、清らかで最も幸福な瞬間に他ならなかった。
それがありふれた幸せを突き抜けたある種いびつな愛の形だったからこそ、そこには現実には存在しえないような純粋な美しさがあった。
胸の奥の深いところにじーんじーんと尋常ではない響き方をした。
小説の内容に大いに触発されて、新婚の僕は妻に、結婚してくれたことに対する感謝を伝えてみた。
僕の態度が真剣そのものであったらしい。何があったの?と妻には不審な顔をされてしまったけれど、ごくありふれた当たり前に思うことの中にちゃんと幸せがあるのだということを改めて気づかせてもらえるような読書だった。
ともあれ、太陽のように純粋で、清らかで、情熱的で、魅力のある主人公との約2ヶ月にわたる長い旅路も、ここが終着駅。
彼女との思い出には余韻があり、しばらくはしびれたようになっていることだろう。
素晴らしい一冊に出会えた。
良書との出会いに感謝である。