P167-228終
「ロシアよ、お前は一体どこへ飛んでいくのか?聞かせてくれ。だが答えはない。りんりんという妙なる鈴の音が鳴りわたり、きれぎれにちぎれた空気が轟々とはためいて風になる。ロシアは地上のありとあらゆるものを追い越して飛んで行く。横目でそれを眺めながら、諸々の他の国民と国家とは傍らへ寄って彼女に道を譲るのである」(P228)
物語の壮大な展開を予告して、第一部完となった。
読者としても胸が高鳴るのである。
ところがである。ところがなのである。
ゴーゴリは死の直前に、第二部を焼却してしまい、永遠に未完の大作となってしまった。
岩波文庫版の下巻は第二部なのだが、現在流布している第二部とは「ゴーゴリの死後、偶然にも作者の手で焼かれずに済んだ未完成の草稿やノートの断片を吟味補正して、不完全ながら」(「死せる魂」上 P256)出版されたものなのである。
はじめは、ゴーゴリの意に反して出版された第二部を読まずに終わろうとも思ったが、解説では「この断片的な第二部の方が、完全な第一部よりもそのムードにおいて後のドストイェフスキイやツルゲーネフ、ゴンチャロフ等の名作に近似する点は注目に値する。ゴーゴリがこの篇において果さんとして果し得なかった課題を、彼の後継者としての写実主義作家たちが承けついで、現実のロシアから抽象した肯定的な理想的人物のタイプを我々に示した。この意味において『死せる魂』第二部は、次代のロシア文学に目覚しい後継者を生み出す母胎となった」(上 P257)と書かれている。
そこまで言うのなら。
せっかくここまで読んできたんだし、読んでみようじゃないの。
というわけで、続けて下巻も読むことにした。