P1-92
楽しく読んできた上巻だったが、中巻は物語が重なり合って、さらに面白くなる。
アクが強い登場人物の中にあって気づかなかったが、この物語の面白さは、実は主人公チチコフにその源があるのかもしれない。
そこまで魅力的でもないし、主人公ならではの際立った性格でもないのだが、感情の表現が豊かで、親近感を覚える。
そして、主人公チチコフの悲喜劇というプリズムを通して、脇役たちが立体的に浮き上がってくるようだ。
社会とは、一種の格闘場なのだと思う。
素直な自分の感情を表現することを是とする風潮もあろう。
逆に、自分の意に添わぬことを心に蓋をして、表現する必要もあるだろう。
時には仮面をかぶって、自分ではないものを演じるのも面白いではないか。
それをピエロとか、偽善とか、レッテルを貼ってしまうのは惜しい。
そんなことを思わせるほど、舞台の上で、名優たちは優雅に役割を演じている。
この物語は、話しの筋は必ずしもそうではないけれど、爽快感がある。
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