今更ながら、あまりにも当たり前な事が書いてあったので、ハイブリッドカーを購入検討されている方の参考になれば・・・と思い、記事を転写します。






トヨタ自動車の「プリウス」が開拓したハイブリッド車市場に、新型「インサイト」で攻勢を仕掛けるホンダ。日本ではガチンコ勝負が話題になっているが、現実にはトヨタとの彼我の差は依然大きい。特に世界最大のハイブリッドカー市場である米国では「プリウス=ハイブリッド車」のイメージは日本で想像する以上に強烈に消費者の心に焼き付けられており、「インサイト」1台で切り崩すのは至難の業だ。(ジャーナリスト 桃田健史)


当初予定より1ヶ月ほど早く2009年3月24日に米国で発売されたホンダ新型「インサイト」。ホンダ関係者によれば、販売目標は日本の4万台強に対して、北米(アメリカとカナダ)は約10万台という。写真は、LA近郊のホンダ系ディーラーの店頭に並ぶ「インサイト」
 「インサイト」の世界販売目標は、年間で20万台弱。「インサイト」の開発責任者/本田技術研究所・主任研究員の関康成氏によると、その内訳は「北米10万台(アメリカ9万台、カナダ1万台)、日本5万台、欧州は5万台と言いたいが現実的には4万台強」である。

 「インサイト」は2009年3月24日(火)、アメリカで発売が開始された。当初4月22日(水)が発売予定日だったが、それを1ヶ月近く前倒した。その理由について、American Honda Motor Co., Inc(北米ホンダ営業本部)関係者は「こういう時期(=全米自動車販売の低迷期)なので、少しでもディーラーへのトラフィック(=お客の流れ)を増やし、他車を含めた販売活性化をしたいと考えた」という。

 北米市場向仕様のインサイトは全数が三重県鈴鹿工場で最終組み立てされ、カリフォルニアに向けて船輸送される。そのため、ホンダのディーラー店頭に並ぶのも、カリフォルニアが最初となり、全米各地へデリバリーが広がっていく。

 筆者は2008年9月仏パリーオートショーでの「インサイト・プロトタイプ」公開を基点とし、日米での報道陣用記者会見/試乗会、本田技研工業社屋(港区青山)で環境関連雑誌対応でのインサイト開発責任者・関康成氏インタビューなど、新型「インサイト」を様々な角度から取材してきた。この他、過去10年間程、北米でのホンダのハイブリッド車、NGV(Natural Gas Vehicle/天然ガス車)、FC(Fuel Cell/燃料電池)車の開発過程も取材してきた。

 その筆者から見た、「インサイト」の北米販売におけるキーポイントは、次の2点だ。

①ボディサイズ

新型「プリウス」に対してひと回り小さい、Bセグメント。このサイズ感、価格、ハイブリッド車としての付加価値のバランスを、消費者がどう見るか?

②MPG(Miles per Gallon)の数値の現実を、ホンダのブランド力が超えられるか?

EPA(米国環境保護庁)燃費で、City(市街地)40MPG/Freeway(高速路)43MPG、その合算値で41MPG。トヨタ新型「プリウス」の同合算値は50MPG。

 では、このキーポイントの2点を、さらに詳しく解析する。



 まず、ボディサイズ。「インサイト」は、全長4390×全幅1695×全高1425mmで、ホイールベース(前輪中心と後輪中心の間の長さ)は2550mm。「インサイト」は新型「プリウス」より、全長-70mm、全幅-50mm、全高-65mm、ホイールベース-150mm。北米市場での車格では、「インサイト」はBセグメント(サブ・コンパクト)となる。

 「インサイト」は日本市場での5ナンバー車と3ナンバー車の法的な境である「車幅1700mm」を重要視した。対する新型「プリウス」は、主戦場アメリカの乗用車の中心市場のC/Dセグメント(ミッドサイズ)に重きを置いた。この戦略の違いは、低迷する日本国内市場のカンフル剤に「インサイト」を使いたいというホンダ側の思いに起因するのだろう。また、「インサイト」と新型「プリウス」の車内に実際に乗り込んで、最も大きな差として感じるのが、後席の居住性だ。「インサイト」はボディ後面の絞り込みが大きく、さらに後席座席位置が高い。

 こうした「インサイト」のボディサイズについて、同車開発責任者の関康成氏は「フィットベースの車として常識的な大きさ。リアの形状は、既存のシビックハイブリッドとの重複を避けた。アメリカではインサイトは1~2乗りで後席乗車はほとんどないと想定している」と語っている。

 そして、「ハイブリッド車の命」である燃費。トヨタは新型「プリウス」の宣伝広告インパクトとして、北米での一般乗用車初のCity/Highwayの合算燃費「over 50MPG」をMUSTとして開発してきた。対する「インサイト」は、実用燃費重視、ハイブリッドシステムの小型軽量簡素化を主張する。

 「ボディサイズ/実用性」と「燃費/実用燃費」と、ホンダがこれまでアメリカで築いてきた「先進、ハイクオリティ、プレミアム、スポーティ」というブランドイメージをいかに上手くリンク出来るのか。そして新型「プリウス」とMSRP(Manufacture’s Suggested Retail Price)で1500ドル前後と予想される(新型プリウスの北米価格発表は4月末頃)価格差を、消費者がどう受け止めるのか。そこに「インサイト」の北米販売実績の今後がかかっている。

 より広い視野で「インサイト」のアメリカ市場での立ち位置を考えると、ここ数年での、ホンダのアメリカ市場での環境対応車事業の見直しが大きく関与していると思う。

 2000年代に入って間もない頃、ホンダの中期構想は、シビックハイブリッド→シビックNGV(天然ガス車)→FCX(燃料電池車。クラリティの前の、リース車)という三段方式を設定した。すなわち、

①ハイブリッド車 →「環境対応=ホンダ」のイメージ訴求

②NGV(Natural Gas Vehicle/天然ガス車) →インフラが不十分でも、環境への意識が高い層の創出

③FC(Fuel Cell/燃料電池)車 →車両が極めて高価(またはリース契約など制約が多い)、インフラが不十分でも、環境への意識が高い層の創出 

が、全体イメージ像だった。


 その中期的戦略と平行して、ディーゼル車の北米市場導入を進めた。これは、北米の市場性に対応して、ミッドサイズSUVの「パイロット」、ピックアップトラックとSUVのクロスオーバー「リッジライン」など、ホンダ車の車体大型化/エンジン大型化が進んだための、CAFE(Corporate Average Fuel Efficiency/企業平均燃費)対応策だ。北米市場での乗用車(SUVを含む)向けディーゼル車導入は、Volks Wagen、Audi、Daimlerが積極的で、トヨタをはじめ、日系メーカーの動きは遅かった。