モニターにはワードの画面が浮かび、「今期決算による~」等の小難しい文字列が並んでいる。
水気を含む髪を荒く拭いて、あいつの横に腰を下ろした。
長く伸びた髪が、腰まで真っ直ぐに垂れている。
その流れに沿うように、静かに手を触れる。
艶やかなその表面は何の抵抗もなく手を滑らせた。
もう一度、感覚を確かめるように手を這わせる。
寝息は乱れない。
まだ、起きない。
ほんの少し、髪を掬い取る。
つ、と手を動かせば、肌触りのいい細い髪束が、指の合間をすり抜けて流れていった。
そうして、何度も、何度も、髪を鋤く。
滑らかな指通りが、次第に癖になっていく感覚を楽しみながら。
軽く摘み上げた髪束から静かに手を離せば、はらはらと髪が零れ落ちていく。
もう一度髪を掬い上げたところで、不意に、身じろぎをされた。
咄嗟に、髪から手をはねのける。
しかし結局起きることはなく、どうやら更に深い眠りに沈んでいったようだった。
この、うすらばか。
このまま朝まで眠りこける気か。
書類の散らかり具合を見るに、急ぎの仕事であることは間違いないだろう。
放置すれば翌朝には惨劇が待っているに違いない。
呆れ気味に溜め息をひとつ吐いて、もう一度、その髪に触れた。
表面を撫でるように、先程よりも少し大胆に、頭のラインをなぞる。
撫でていた手はいつしか髪の流れに沿って降下し、摘まみ取れるだけの僅かな毛束が指を滑らかにすり抜けていく。
辿り着いた髪先は、自分の顔の目の前まで迫っていた。
起きろ。
いや、起きるな。
起きろ。
起きるな。
起きろ。
起きるな。
――… 気付け。
手繰り寄せた髪先に、静かに、唇を寄せた。
鼻先に、むせかえるような、シャンプーの香りが充満する。
もし目を開けて、こいつが、目を覚ましていたら。
そしたら、俺は、――…俺は、どうする?
ゆっくりと、目を開ける。
あいつは、気付かない。
寝息は相変わらず一定のリズムを保っている。
不思議な居心地の悪さだけが腹の底に溜まっていく。
やっぱりこいつは、うすらばかだ。
起きないのなら起こしてやるものか。
明くる朝に真っ青になって泣きを見るがいい。
気付かなかった、罰として。
★たったひとつの触れる方法