昆虫学者のデイヴ・グールソンの著書『サイレント・アース』によれば、1990年以降の約30年間で、地球上の昆虫の90%が消えたという。種類ではなく絶対数、つまり量の話である。(勿論、種も減っている)

これはかなりショッキングな数字だ。全く知らなかった。

昆虫の数が9割も減って、世の中が何も変わらないということがあるだろうか。そんなわけがない。なぜなら、昆虫は食物連鎖のベースを成しているからだ。小鳥、両生類、川魚などの多くは昆虫を食べて生きている。また、花の受粉、朽ちた樹木、動物の死骸や糞尿の分解も担っており、生態系の秩序維持は昆虫の働きなしでは不可能だ。その存在が今消えようとしている。

減少の主因は、農薬、除草剤、化学肥料の過剰使用と流出だという。世界中で進行する森林伐採、単一種の人工樹林(日本の杉林など)も無関係ではないはずだ。気候変動や夜中も明るい街灯りも関係していると考えられる。

虫はどちらかといえば嫌われ者だ。しかし、自然界というのは人間が考えている以上に多様で複雑系でありながら、しっかりとした約束事があって、それによって共存が成立している。それが今、土台から崩れようとしているという。

個人的には、農薬や除草剤の使用を制限しても、それは症状の緩和に過ぎず、根本解決にはならないと思う。いつも思うのが、農業や牧畜って、人類にとって本当に正しい選択なのかということだ。とはいえ、地球がこれだけの人口を抱えてしまった今、急激にその食料供給システムを変更するのも難しい。

昆虫好きで知られる医学者の養老孟司氏は、昆虫激減の影響は、既に少子化という形で現れていると言っている。これはどういう因果関係で言っているのかは分からない。増えすぎた地球の人口と、人間の誤った選択には、いよいよ自然界の摂理が働き始めたということなのだろうか。

行き詰まった問題はエネルギーや温暖化、貨幣経済だけではない。足元ではこんな問題も着実に進行していた。

バタフライ・エフェクトは気付かないところで既に始まっている。それは紛れもない事実であり、予測不能な現実が待ち受けている。