優世代戦闘機・姫_1話(世界のはじっこで) | 言葉使い師の唄〜心の進化の為に〜

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「この空域は、まだ悪意に染められていない・・・」


もうじき夜が明ける・・・

私は寺田大尉。
この「日元国(ニーゲンコク)」軍の中堅戦闘機パイロット。
かつて私の国は軍隊を持たない平和国家だった。
警察守備隊を国民投票で選ばれた政党が憲法を改定させて、正式な軍隊に変えてしまった。

勢いづいた権力者達は、隣国の世界規模の経済大国。
「重帝国(ジュウテイコク)」に未発掘のエレメント鉱山の利権を巡り喧嘩を吹っかけてしまった。
我がニーゲンは人口1億人。対するジュウテイは人口30億人。
国土の面積も30倍。
世界のハジッコで軍事紛争が始まろうとしている。
誰も止めようとはしない。政府がメディアを利用し国民から信念を奪ってから、ニーゲン人はフヌケの商人に成り果ててしまった。
世界一の先進国カリメロ会集国に、軍事同盟の支援を受けるとは言え、真っ先にこの国が叩き潰されるだろう。
我が国に駐留している頼りのカリメロ軍兵力は、タイパイ洋上で交戦中だ。南の主要都市で大規模な防衛戦闘が始まっている。
手薄になる地方都市を日元国軍が補う戦略らしい。

この優世代支援戦闘機ヒメの戦闘コンピュータ「ヒメ3型」は、
信じられないような戦闘行動計画を提案してくる。
人間の常識では考えつかないマヌーバや戦術が結局は、
自機の優位な高度、位置と機動をもたらしてくれる。機体の数値データを全て熟知している。人間にかかるGも考慮して・・・

この戦闘コンピュータ「ヒメ3型」は性別があるのなら、
間違いなく女だ。男のパイロットには気がつかない些細な気配りをする。

僚機の小林中尉の2号機は発進が遅れていたせいで戦列に加わっていない。ノロマめ!
北部のトンコツ空軍基地からも主力戦闘機が上がっているはずなのだが。こっちの方が作戦区域に近いからか、未だに無線に応答無し。有事を想定しているとは言え、スクランブル発進だからな。
単機でやるしかないのか・・・

「あの向こう、重帝国の上陸部隊が展開を始めている」

森の向こうの砂浜。幾つもの小さなオレンジ色の光。
海岸線一帯で重帝国軍の地上部隊の上陸作戦が進んでいる筈だ。我が軍の地上部隊は、規模と装備が完全に不利なのに。
それでも軍上層部命令だから応戦に向かったが。
簡単に撃破駆逐された様だ。無線から被害報告、まるで玉砕だ。

敵航空兵力が潜んでいる筈。広域レーダーには反応がない。

ピーィ・ピィピィピィ

「アラート!アラート!」

「!」

真正面から空対空ミサイルが来る。2機。高速バレルロールでマヌーバをかけてかわす。スロットル90パーセント加速。

生きた心地がしない。
正面から突っ込んでくるレーダー誘導ミサイルを間一髪でかわすのだからな。
ミサイルと同一線上に直進し操縦桿を軽く引きながらロール。
円を描くように機首を回転させる。陸地と空がくるくる回る。
ひとつでもタイミングが狂えば、死だ。

ヒュンッ!

もう一回!

「機動が違う!」
「く、くっそー!!」

ヒューン!

まるで昆虫のトンボを捕まえている様だ。くるくると目を・・・

「はあっはあっはあっ・・・」

今レーダに映った、機数は2。ポトフ共和国製の量産戦闘機。

「シュート・・・シュート・・・」

バシュンッ!

バシュッ!

スロットル開度全開アフタバーナー使用。推力と高度を上げる。高所から距離を詰め背後から赤外線誘導ミサイルでトドメを刺す。

「サクセス」

「・・・・」

「ルーズ・・・」

一機逃した。

チンチンチンチン・・・

「!」

戦闘コンピュータ「ヒメ3型」が理不尽なマヌーバ(航空機動)
を提案して来た。
ヒメ3型が戦術理論と戦闘結果の現実化の確率データをはじき出す。
有機LED戦術ディスプレイ内で図形グラフと文字・数値データが高速で流れフッ飛んでゆく。

【赤外線ミサイルを一射したら即座に兵装をガンに切り替え】

「お前に賭けるよっ・・・ヒメ!」


グワァアア・・・・

高高度を確保してからスプリットS。視界がひっくり返る。
機体が悲鳴を上げだした。ブラックアウトとGに耐えながら敵の背後を取る。まだ目の前が真っ暗だ。血の気が足へ向かって落ちてゆく。
この重力が。

ビィィィィー!

バスンッ!

サイドワインダーが狂ったように飛んでゆく。
予知通りに兵装をガンに切り替える。照準に敵機がいきなり飛び込んできた。

「!」

敵機がエアブレーキを開いて急制動をかけている。
後ろの後ろを取るつもりの戦術だ。
本能的にラダーペダルを踏んでガンサイトのズレを合わせる。

ガルゥゥゥウゥゥ・・・!

30ミリ・バルカン砲を瞬時に刻む。
一瞬で撃墜できた。ヤバかった。これがヒメの予言か・・・

「俺の腕に賭けてくれたんだな?ヒメ」

目標を無くした自機ミサイルはゆらゆらと遠くの森に落ちてゆく。

空域の制空権はまだ奪われていない。しかし時間の問題だろう。重帝国軍の空軍の展開が遅い気がするが。
タイパイ洋の海軍がまだ頑張っているのだろう。

「こちらカリジマ空軍基地の佐々木中尉です」
「バレタ対地攻撃小隊、遅れました」

「ムラサキ航空基地の寺田大尉だ。敵航空勢力の脅威は排除した」
「安心して花火を上げてくれ」


空対地支援の攻撃機が今頃来たのか。空対地ミサイルを戦闘車両に発射しているが、いかんせん数が多過ぎる。あれじゃ撃墜される。

私の機体には対地支援用の装備は無い。基地へ帰投するしかない。

「・・・今日はまだ私は生きている」
「ヒメは私とこの機体を守る為に」
「設計以上の才能を発揮するのだろう・・・」

遠く、北の方角の山間部沿い。重帝国軍の巡航ミサイルが地上スレスレで飛んでいる。迎撃は不可能だ。

朝焼けの光が綺麗にキャノピーに反射する。

「こちらキンモク・リーダー。主任務を達成。帰投する」

「おい!こら小林っ!何やってやがる!一回カシだぞっ」



「この空域は、まだ悪意に染められていない・・・」