暗闇の中で(オートマチックガールズライフル6話) | 泣き虫おっさんの利他主義。

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心不全直腸がん術後転移してステージ4。
浜松の精神障害者。
イラストと詩と小説を書きます。
名もなき革命者です。
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インフルエンサーじゃなく、パイオニアになりたい。

 アンは小都市チョモイヤ・シティから離れ。
近郊の丘の上にある住宅街に身を潜めました。
ここもゴーストタウン。
適当に家を決めて、玄関を壊して2階の子供部屋(女の子の部屋みたい)に侵入。壁にもたれてあぐらをかき、自分が持っている携帯食料を食べる。
ライフルを右肩に掛けたままで。

ムシャムシャムシャ

ぐすっぐすっ

泣きべそのまま食べています。左手で涙を拭きながら右手を使って食べる。

もぐもぐ

んぐ・・ごくん

アン(あーあ)
  (私もこんな豪華な部屋、オトメチックな部屋で暮らしたかったな)
  (この部屋のあるじの女の子は、今どうしてるんだろう?)

アン「!」
  「あ、ぬいぐるみのピィピィちゃんだ!抱っこ♡!!」
  「フンフーンっ♪」

ぎゅう

アン「かーわいぃーっ!」

アン「・・・・」

ピィピィちゃんが血で汚れてしまった。
右肩に背負ったライフルを気にしています。

アン「・・・・」
  「この子を使って兵隊さんを殺したんだ」
  「・・・・」

アン(顔を洗いたい、体も)
  (風呂桶に水が張ってあったな)
  (そしたら今日はもう寝よう)
  (誰だか知らない女の子のベッドで・・・)

電気が通っていないことがアンには好都合でした。

アン(これは住居不法侵入よね)


真夜中、午前様。
女の子のベッドで寝ているアンは、ふと目を覚まし。
一人考え事をしています。暗い天井を見つめながら・・・

アン「やっぱりそう」
  「私はきき目が左目だから、左目でスコープを覗いたから」
  「弾がずれるんだ、中尉殿は右目がきき眼なのよきっと」

朝起きたら、照準の調整をしないと・・・

アン「・・・・」
  「アニィ・・お休み・・・」




暖かな春の匂い。まぶしく咲き誇った花壇の中で小さな蝶々が舞っている。柔らかな日差しの昼下がり。
ちびっ子たちが集まって、一番ちっちゃなアンの講義を聴いています。

アン「いい?みんなきくのよ?」
  「わたしアンはおおきくなったら、うーんとべんきょうして」
  「きゃんぎょふちゃんになるのよっ!」

ちびっこA「あははは!。アンが看護婦さんじゃ病気になれないやー」

ちびっこB「あはははっ!」

アン「あによ、ひつれいなしとたちねえー!」

アニィ「あははは、無理無理!」

アニィが一番大げさに笑い転げています。

アン「あにぃにいちゃん、おぼえておきなしゃいっ!」
  「きっとこーかいするわよっ。ふんっだ!」




暖かな温もり、懐かしい記憶。眠っているアンの心は涙を流しています。
ゆっくりと目を開き、目を覚ます。現実のアンも涙がにじんできた。

アン「アニィ・・・」

両手で涙を拭きながら、アニィとの最後の別れの時のことを思い出す。
少し、笑顔になりました。
まだ夜が明けていない天井を見つめながら、また今日を生きる覚悟を決める。

丘のふもとのチョモイヤシティから散発的に銃声が聞こえます。
東の方角が少し明るくなってきました。夜明けまであと少し。
アンが今いる丘から、南へ15キロほど行ったところに。
味方の前線基地がある筈。マップに手書きで書き込まれていました。

アンはこの半年の間によく死体あさりをするようになりました。

アン「私ハイエナ・・・」

でも生き残るためなのですから。

丘の上の見晴らしがいいところで。ふもとのチョモイヤ・シティを見つめながら考えます。

アン「この戦争という名の人殺しゲームは」
  「一体何を欲しがっているんだろう・・・」

右手に持っているライフルから肩の力が抜けてゆく。

アン「人間の命が欲しいの?」
  「誰が欲しているの?」

アン「私が昨晩、狙撃して殺した」
  「敵のペパーミント連邦の兵隊さん・・・」
  「あの人にも家族や友達がいて、彼女や奥さんだって居るんだ」
  「おぎゃあって叫んでお母さんのお腹の中から出てきて」
  「泣いたり笑ったりしながら周りの人達に愛されて生きてきたのよね」
  「その人の人生を、私のこの子の弾丸で終わらせてしまった」
  「当然、故郷の家族や友人達も、奥さんか彼女も」
  「泣くだろうな、悲しむだろうな・・・」

大粒の涙が出てきました。

アン(なんでこんなことを考えちゃうんだろう)

朝日が涙でにじんで見えます。

アン「朝焼けってこんなに綺麗だったの?」



第三章終了