トンナムの朝(オートマチックガールズライフル1話) | 泣き虫おっさんの利他主義。

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心不全直腸がん術後転移してステージ4。
浜松の精神障害者。
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名もなき革命者です。
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インフルエンサーじゃなく、パイオニアになりたい。

 
今、季節は夏の終わり残暑の中、シャツの背中を伝う汗の滴が心地よく感じる頃。
トンナム国、田舎の山村の森だらけ田んぼと川の自然の土地。
チョモル村、その中にある小さなミシン工場の敷地の中。
プレハブ小屋のひとつのその中で。
今、ひとりの少女が社会人として働くために産まれて初めての採用面接に挑んでいるところです。

面接官「あなたのお名前は?」

少女「アン・ユウリィです!」

面接官「学校はどうされました?」

少女「はいっ」
  「私は今17歳で高等学部2年生なのですが。現在この社会情勢ですので。勉学に励むよりも、少しでも早く社会に出て自立する方が良いのではないか。と考え、学校を自主退学いたしました。」

面接官「ふむん・・・」
   「今時、珍しいくらいの真面目なお嬢さんだな。」
   「よろしい。では、アン・ユウリィさん。」
   「我が社の為に働いてくれますか?」

アン「はいっ」
  「一生懸命働かせていただきます!」

アンの顔は仕事が決まった喜びで、笑顔がはちきれそうだ。
両のこぶしを両膝の上に乗せたままの。正しい姿勢でパイプ椅子に座る小さなアンは。
希望でいっぱいの元気なエネルギーが体全体からにじみ出ている。面接官の初老の男性は、面食らって少し照れくさそうに笑顔になった。

アンの言った社会情勢とは。この国に戦争の影が忍び寄ってきていると言う事。長引く不況、通貨の暴落。世界中がどんどん暗い方向へ向かっている。
仕事が無い貧乏な地方の若者は軍隊に入るくらいしか生きるすべがない。またその事を正当な行為だ、と思わせるようにマス・コミニュケーションが仕事をしている。

最近アンの暮らす地域にも空軍のジェットがひんぱんに飛び交うようになってきた。
もうきな臭い匂いがしているのを、皆、知らない素振りをしていた。

アン「ただいまあ」

母「アン、どうだった?」

アン「バッチシ、ちょろいもんよ!」

母「あー良かった、これで食いつなげるわ」
 「私のミシン内職だけじゃ食べてゆけないもん」

アン「アシモフ兄さんの分も、私がこの家をやしないますからね、エッヘン!」

母「はいはい」

アン「ネーお母さん。お父さんのお給料が入らなくなってからどれくらい経つの?」

母「うーん、2ヶ月くらいかしらねー」
 「お父さんの自動車修理工場の地域は、国境線に近いところだから」
 「お父さんと連絡が途絶えたのは一ヶ月前だけど」
 「もう敵の空爆が始まっているって噂だから、怖くて確かめに行くのもおっくうになるのよね」

アン「来週辺り、私が自転車でお父さんの街まで見に行こうか?」

母「アン!」

アン「はい」

母「あなたはまだ女の子ですよ?」
 「自分から危険に向かっていってはいけませんっ」

アン「はい」
  「ごめんなさい、お母さん」


アシモフ兄さんとはアンが幼い頃に病死したアンの実の兄の事です。屋根裏部屋のベッドに寝そべりながら。窓の外の星空を眺めて色んな物思いにふけるのが、アンの日課です。

アン「初月分のお給料もらえるのかなー?」
  「うーん」
  「流れ星はないけど」
  「願掛けちゃうー」
  「アニィ兄さんと結ばれますように・・・」

目を閉じ、両手を結んで。ベッドの上で正座をしながら。
アンは星空に祈りを込めます。

アニィ兄さん。アンの幼馴染の近所の年上の少年の事です。
どーやらアンはアシモフ兄さんと重ねて見ているようです。


ここで主人公のアン・ユウリィの事を説明します。
アン・ユウリィ。17歳の少女。片田舎のごく普通の貧しい家に産まれ育った苦労ばかり知っている女の子。
おかっぱの黒髪はサラサラでいつも天使のリングが見えています。
目はふたえ、鼻は団子鼻。唇は小さくたらこ唇?
田舎育ちの女の子らしくほっぺが赤みがかかっています。

「世界は希望でいっぱいだ」

と本気で信じている。夢見る乙女です。