行き当たり、ばったり……-竜二 「竜 二」 
1983年・東映セントラルフィルム・92分


監督: 川島透  脚本: 金子正次  主題歌: 萩原健一「ララバイ」


出演: 金子正次 (花城竜二) 永島暎子 (花城まり子) 北公次 (ひろし) 佐藤金造 (直) もも (花城あや) 岩尾正隆 (関谷) 小川亜佐美 (関谷まゆみ) 銀粉蝶 (あけみ) 高橋明 (酒屋店主) 檀喧太 (三東会組員) 土方鉄人 (キャッチバーの男) 泉アキ (キャッチバーの女) 他


  自主制作映画だったが、異色のやくざ映画として高い評価を獲得、1983年全国公開され、この年のキネマ旬報第6位。しかし自ら借金までして映画を作り、脚本と主演も兼ね将来を嘱望された金子正次は、成功を見届けた1983年、11月6日未明、松田優作らに看取られ、癌性腹膜炎のためこの世を去った。享年33。


 小劇場を根城に演劇公演を続けてきた金子正次が演劇から離れ、そのエネルギーを蓄えて仕上げた意欲作。主人公の花城竜二の名前「竜二」を題名にしたこの映画は、青春を過ぎようとしている新宿のやくざ竜二が、金と出世欲だけで動くやくざに、ふっと、疎ましいものを感じ、やくざ社会の落ちこぼれとして堅気の人間になって行くといういわば、やくざの内部から市民社会へと“恐怖の一歩”を踏み出して行く物語。



行き当たり、ばったり……-竜二_2 『花の都に憧れて、飛んできました一羽鳥、縮緬三尺ぱらりと散って、花の都は大東京です、金波銀波のネオンの下で、男ばかりがヤクザではありません、女ばかりが華でもありません、六尺足らずの五尺の体、今日もゴロゴロ明日もゴロ、ゴロ寝さまようあたくしにも、たった一人の餓鬼がいました、その餓鬼も今は無情に離ればなれ、一人さみしくメリケンアパート暮らしよ、今日も降りますドスの雨、刺せば監獄 刺されば地獄、あたくしは本日ここに力尽き引退いたしますが、ヤクザもんは永遠に不滅です』


 妻と娘のために足を洗って堅気になった男の焦燥と葛藤を描いたヤクザ映画。自身ヤクザの世界に身を置いたことのある金子正次が脚本(鈴木明夫は彼のペンネーム)・主演をこなした。



行き当たり、ばったり……-竜二_3  花城竜二(金子正次)は新宿にシマをもつ三東会の幹部である。だが、その竜二も、三年前は器量もなく、舎弟を連れて新宿をのし歩いていただけだった。カタギの運転手とトラブり、拘置所に入れられた竜二の保釈金を工面するため、妻のまり子(永島瑛子)は当時生まれたばかりの娘あやを抱え九州の両親に泣きついた。両親はまり子の兄弟の手前、やくざの竜二と別れるならという条件で手切れ金として保釈金を出してくれた。事情を知らずに保釈で出てきた竜二は、それを知って怒り狂うが、約束通りに妻とは別れた。竜二の器量が上がったのはそれからだったが、幹部としての安定した生活の中、いくら金を手に入れ、別れた妻への仕送りをしても、充たされないものが体の中を突き抜けていく。そして、新宿のとある店を巡る権利金の争いをまとめた(ある意味偶然なのだが)ことがきっかけで、竜二はやくざ社会から足を洗う決意をする。堅気の世界へ勇気を奮って踏み込んでいった竜二。妻と娘と竜二との、ごくありふれた市民生活。酒屋の店員としてトラックで走り回る毎日……。だが、穏やかな堅気の暮らしが続いていくかに思えたのも束の間、竜二の人生は破局へと向かっていた。そして伝説のラストシーンへと展開していく……。


 平成23年1月2日(日)に日本映画専門チャンネルで再、再放映された。冒頭と最後に、永島瑛子・川島透・桜金造(佐藤金造)によるインタヴュー、金子正次の劇団時代の映像などを交え紹介した。超低予算で制作された本作品を語る川島透監督、作品を熱く語る永島瑛子・桜金造。新宿の喫茶店で、川島・金子の二人と初めて会い、その場で脚本を読まされ、その場で出演交渉した経緯など、また桜金造は2週間の拘束で僅か7万円の出演料(当時金造は営業では20分で30万円だったとか)で、この役を受けた。「俺が断ったら他に演る奴いないんじゃない?」と言ったという……。それぞれの熱い思いを語る。


 中段の写真は、竜二の親友(ダチ)を直(桜金造)がコケにした事に怒り、殴りつけているシーン。この後、直は包丁でエンコを詰めようとするのだが……。


 リハーサルに時間を使い、なかなか本番のスタートがかからない。その度に、桜金造は金子正次から本気で(?)殴られたと語っている。思いあまって金造が「監督、そろそろ本番出して貰えませんか」と頼んだという。


 川島監督は、「本番は、なぁ! フィルムが回るんだよ!」と、低予算作品の悲しさとも言える悲鳴をあげた、と語っている。


 下段の写真は、伝説のラストシーン。西新宿から、さらに西の商店街。竜二が夕暮れ時の肉屋の前、夕餉の物を買うため、列に並んでいる妻と娘を見つけた。妻も竜二に気がつく。竜二との別れを悟った妻は、娘に「おばあちゃんの所へ帰ろうか?」と一言。


 このシーンを冬の夕方、一日で15カット撮ったと、永島瑛子・川島透は語っていた。


 確かに、この作品は名作に違いないと思う。金子正次、それを看取った松田優作も、もうこの世にはいない……。