54年前の1970(昭和45)年の3月15日。
大阪万博が開幕した。
この日ではなかったが、
ティケットが妻のつてで2枚入手できたので、
この月の内に出かけた。
人人人の洪水に度肝を抜かれたり、
いらだったりしながら、
岡本太郎作の太陽の塔に迎えられた。
「何だ、これ?」
誰かの声に失笑の渦が巻き起こった。
「芸術だぞ!」
たしなめる声に拍手も起きた。
「どこがいいのかしら」
妻は懐疑的だった。
「いや、見ているうちに出所不明のエネルギーが湧いてくる」
ボクは前年に初めて小説誌の新人賞に応募した。
その作品は2次予選に通過したので、
何年か頑張れば何とかなるとやる気になることができた。
ボクのどこから湧いてきたのか分からないが、
そのエネルギーは新人賞受賞への意欲を倍加してくれた。
何のバビリオンだったか。
ギュウギュウ人波に押されながら、
妻が軽く叫び声を上げた。
「あら、克美しげるだわ」
見ると、仕事だったのだろう。
克美しげるが含羞を滲ませた笑顔で控えめに頭を下げていた。
「優しそうで真面目で好きだわ」
この7,8年も前に新宿のジャズ喫茶で見て聴いているので、
ボクはロカビリー歌手という認識だった。
妻にとっては「さすらい」で大ヒットし、
紅白にも出ているので人気歌手という認識だった。
それから数年後、
克美しげるは愛人の女性のいのちを奪う、
という殺人事件を起こした。
出所後、
カラオケ教室を開いたと噂に聞いたが、
10年程前に他界した。
大阪万博は同年の9月13日に閉幕。
約6400万人の入場者があって大成功を収めた。