①労働基準法の基本理念等

 

(労働条件の原則)
第一条 労働条件は、労働者が人たるに値する
生活を営むための必要を充たすべきもの
でなければ
ならない。
②この法律で定める労働条件の基準は最低のもので
あるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を

低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように

努めなければならない。

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●人たる生活を営むための必要を充たすべきもの
  ⇒憲法25条と同様の宣言的規定。

 

●労働条件を低下させてはならない。
 向上を図るように努めなければならない。
  ⇒労使の合意があっても違反行為
  ⇒社会経済情勢の変動等他に決定的
   理由がある場合は抵触しない
 
 ☞労働基準法の労働条件の基準が会社の
  就業規則に定める基準より低いことを理由
  として労働基準法の水準にまで引き下げる
  ことは違法。
 労働基準法⇒1日8時間の労働時間
 就業規則⇒1日7時間の労働時間
 労働基準法の基準(8時間)にすることは違反

 

 

(労働条件の決定)
第二条 労働条件は、労働者と使用者が、対等の
立場において決定すべきものである。
②労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し

 誠実に各々その義務を履行しなければならない。

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 ●労働協約
  ⇒労働組合と使用者又はその団体と
   結ばれる労働条件などに関する協定
 ●就業規則
   ⇒労働者が守るべき使用者が定めた
    規則のこと
 ●労働契約
   ⇒個々の労働者と使用者が結んだ
    一定の労働条件のもとで労働力を
    提供する契約のこと
  
 ☞1条と2条の違反について罰則の定めはない。

 

②労働者の人権保障


(均等待遇)
第三条 
使用者は、労働者の
国籍、信条又は
社会的身分
を理由として、賃金、労働時間その他の
労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

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●信条
 宗教的又は政治的信念のこと

●社会的身分
 生来的な地位のこと
  ⇒職員と工員、正社員と臨時社員などは
   社会的身分ではない。
   職制上の地位により待遇に差異を設ける
   ことは違反ではない。

●労働条件
 職場における労働者の一切の待遇をいう。
  ⇒賃金、労働時間、解雇、災害補償
   安全衛生等
   「採用」は含まれない

☞差別的取扱には、不利だけでなく有利に取扱
 場合も含まれる。

☞国籍、信条又は社会的身分は限定的に列挙
 したもので、これ以外の理由での差別的扱い
 は「本条には」違反しない

 

(男女同一賃金の原則)
第四条 
使用者は、労働者が女性であることを理由として賃金について、

男性と差別的取扱いをしてはならない。

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●「女性であることを理由として」
  ■女性であることのみを理由として
  ■社会通念上やその事業において
   女性労働者の方が一般的、平均的に
   能率が悪いこと
  ■勤続年数が短いこと
  ■主たる生計者でないこと
   
  ⇒職務、能率、技能、年齢、勤続年数等
   で個人的差異が生じても本条違反ではない。

●賃金
 賃金額だけでなく
  ■賃金体系
  ■賃金形態
  等を含む。
  ⇒男性は月給、女性は日給などは違反
  ⇒賃金以外の労働条件
   昇進、定年年齢で差別することは
   「男女雇用機会均等法」で禁止されている

 

(強制労働の禁止)
第五条 
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神
又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、
労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

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●暴行・脅迫・監禁の他に
 長期労働契約
 賠償額予定契約
 前借金相殺契約
 強制貯蓄
 なども精神的または身体的自由を

 不当に拘束する手段

 ⇒労働者の意思に反して労働を強制
  不当な手段で労働者の意思を抑圧し
  その自由な発現を妨げて労働を強要すること
  「現実に労働をすることを必要しない」
   ⇒不当手段、抑圧を用いることがNG

☞本条違反については
 「1年以上10年以下の懲役または
  20万円以上300万円以下の罰金」
 という労働基準法上最も重い罰則が
 科せられる。

 

(中間搾取の排除)
第六条 
何人も法律に基いて許される場合の外、業として

他人の就業に介入して利益を得てはならない。

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●「何人も」とは
  個人、団体、公人、私人を問わない
●「業として利益を得る」とは
  営利を目的として同種の行為を
  「反復継続」することをいう。
  主業、副業は問われない。
  1度の行為であっても、反復の意思が
  あれば業となる
●(ここでいう)法律
  職業安定法と船員職業安定法のこと
  ■「職業紹介」等は法律に定める料金等を
   超えて金銭等を収受すると本条違反となる。
    ⇒求人及び求職の申込を受け
     雇用関係の成立をあっせんすること
  ■「労働者派遣」は他人の就業に介入した
   ことにはならないので、合法、違法を問わず
   本条違反にはならない。
    ⇒派遣元で雇用する労働者を派遣先の
     使用者の指揮命令で、派遣先のために
     労働に従事させること

  ☞帰属主体
   他人の就業に介入して得る利益の帰属主体は
   当該行為者に限られない。
   法人の従業員が違反行為を行い
   法人が利益を得ている場合であっても
   その従業員について違反が成立する。

  ☞「利益」とは金銭以外の財物を含み
   有形、無形を問わず、使用者からだけでなく
   労働者又は第三者から得る利益も含まれる。

 

(公民権行使の保障)
第七条 
使用者は、労働者が労働時間中に、
選挙権その他公民としての権利を行使し、又は
公の職務を執行するために必要な時間を請求した
場合においては、拒んではならない。但し、権利の
行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、
請求された時刻を変更することができる。

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●公民の権利該当・非該当
 『該当』
  ■選挙権・被選挙権
  ■行政事件訴訟法による民衆訴訟
 『非該当』
  ■選挙応援
  ■一般の訴権行使

●公の職務該当・非該当
 『該当』
  ■衆議院議員等の議員の職務
  ■裁判員
  ■裁判の証人
 『非該当』
  ■予備自衛官の招集
  ■非常勤の消防団員の職務

 

☞労働時間中に裁判の証人出廷
 ⇒拒むことはできない
  「拒んだだけで違反」
 ⇒無給でもよい

 

③適用事業

 

第八条 削除

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☞労働基準法の第8条は、平成10年
 法律第112号により削除。

内容は、「適用事業の範囲を号別に列記する方式を
廃止するものとしたこと。(第8条関係)」
となっている。

労働基準法の適用範囲を、職業別に列挙するのでは
なく、第9条-第11条などで包括的に指定するため。

●労働基準法はほぼすべての事業に適用
 ∇事業とは
  「会社」と同じ。「場所の作業体」を意味する。

  A社の本店と支店は別々の事業として適用される。

 ∇事業を開始したときは、遅滞なく労基署へ報告

●主要な事業(法別表第1)
 ∇1号~5号
  工業的業種
  (製造、鉱業、建設、運輸など)
 ∇6号~15号
  非工業的業種
  (農林、水産、商業など)

 ⇒便宜的に分けていて、ここで列挙される
  事業にのみ適用されるわけではない

●同一場所
 一個の事業として適用
  ⇒態様が著しくことなる時は別個の
   事業として適用
   (工場内の診療所など)

●適用除外
 ∇同居家族のみ
  ⇒対立があってもただの喧嘩扱い
 ∇家事使用人
  法人に雇われ、その役職員の家族の
  指揮命令で家事一般に従事している者

 『適用されるもの』
  ■お手伝いさん
  ■行政執行法人の職員
  ■外国人
  ■外国法人
 『除外されるもの』
  ■同居家族のみ
  ■家事使用人
  ■一般職の国家公務員
  ■外交官
 『部分的除外』
  ■船員
  ■地方公務員
  ⇒法の一部が適用されないが
   原則、均等待遇、強制労働などは
   適用される

 

④労働者と使用者の定義

 

(定義)
第九条 
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は

事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を

支払われる者をいう。

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●労働者
 使用従属関係にある者
 『該当例』
  ∇執行権、代表権をもたない
   部長、工場長など
  ∇組合の専従職員
  ∇新聞配達員

 『非該当例』
  ∇個人事業主
  ∇法人・団体等の代表者、執行機関たる者
  ∇下請負人
  ∇同居家族
   ⇒例外的に同居家族が労働者となる
    3つの要件(3つとも満たされている場合)
     ①常時同居親族以外の労働者を使用
     ②事業主の指揮命令に従っていることが
      明確
     ③就労実態が他の労働者と同様で
      賃金が他の労働者と同様に支払われて
      いる

第十条 
この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の

労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。

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●すべての者
 事業主、代表者、取締役などに止まらず
 人事部長、総務課長なども含まれる
   ⇒人事部長、総務課長などが
    含まれるかどうかは
    形式にとらわれず、実質的に
    一定の権限を与えられているか
    どうかによる。
    上司命令の伝達者は該当しない。

●事業主
 ∇個人企業~事業主個人
 ∇法人企業~その法人

☞労働者派遣
 労働基準法の適用は、派遣元の使用者が負う
  ⇒例外的に、労働者派遣法による特例で
   派遣先に負わせるものもある

 


 
☞出向
 ∇在籍型
  出向元使用者、出向先使用者、労働者
  の3者間の取り決めで、権限と責任に
  応じて出向元、出向先それぞれ使用者責任を
  負う。

 ∇移籍型
  出向先使用者のみが使用者の責任を負う