この記事を阪口珠美ちゃんと彼女の類まれなるパフォーマンスの才能に捧げます。

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(MV 予告編より)

『あの日 僕は咄嗟に嘘をついた』

この曲を作詞したときに、秋元康先生の脳内を駆け巡ったシナプスの軌跡を
僕なりに妄想してみるとする。


さて。
人生には、取り返しのつくこととつかないことがある。

もちろん、中には取り返しのつくことなんてないという人や
頑張ればなんでも取り返せるよ!と無意味なハゲましに、胸を揺さぶられている人もいる。

僕も、人生にはもしかしたら取り返しのつかないことしかないんじゃないか
なんて、思考に影響されたこともあったけれど、

いまの段階では、こう思っている。

「人生には、取り返しのつくことがいっぱいある。でも、たいていの人には取り返せない」


この曲は、そんなストーリーが込められていると思う。

あの日 僕は咄嗟に
嘘をついたんだ
どんな嘘か
今は覚えていない


人生において、重要な選択を迫られる場面はたくさんある。
まあ、受験だとか、就職だとか、そんなメリットデメリットで考えなきゃいけないような
堅苦しい話は別として。。。
例えば恋愛だったり、友情だったり。
そんなことには、本当に考えている時間はないものだ。

たとえばこんな話
出来すぎているかもしれないけれど。

例えば修学旅行の日
「お前、好きな子いるの?」
と聞かれて、
咄嗟にいないと答えたとき。

直後にその友達の口から、自分の想い人の名前が出てきたら
どんな顔で
「ああ、かわいいよな、いい子だよな」
って言えばいいと思う?


やっぱ人間ってその瞬間に
「あ、やっぱり俺も好き」
とは言えないもんだと思うんだ。


僕が乃木坂46の握手会に初めて行ったとき
初めて握手したメンバーのことは、そんなに詳しくは知らなかったのだけれども
何を話したらいいのかわからなくて、
「あっ、いつも応援してます」
って言ってしまった。

それから、そんな自分の言葉に縛られるようにして
ブログを読み漁り、モバメを登録し、
グッズを買い、ライブでも注目してみるようになって。
どんどん好きになっていった。

もちろん、そこに続いていたのはとてもとても幸せな日々で
そのこと自体にものすごく感謝してる。
けれども、きっかけというのは案外
「咄嗟の嘘」みたいな言葉から始まったりするのかもしれない

(もちろん、それ以前の段階で選んで握手券を取ってるわけで、これがきっかけと言い張るかどうかは別なのだけれど)


もっと直接的な話でもいい。
初めて隣の席になった女の子
話してみたらすごく面白くて、仲良くなって。

ああ、いいなぁ。
なんて思っていたのに、
「そういえば、かがやきくんって、彼女いるの?」
って聞かれたときに。

かっこつけて
「ああ、いるよ」
って。

おいいいいい

違うだろ!って心の中では思っているのに
咄嗟に嘘をついてしまったりする。



それは大人になっても
心のどこかに
苦い液を
滲ませているようだ



たとえ咄嗟の嘘でも、
人間というのはそれを塗り固めようとしてしまうものだ。

ひとつついた嘘は、より多くの嘘を生む
そして、まるでほんとうのように人生を支配していくのだ。

「実は俺も好きなんだよね」
って言いだすタイミングはいっぱいある。
いつでもいいんだ、
でも、それはほんとうに難しいことでもある。
むしろ、そうやってごまかしてタイミングを見失っているうちに
恋自体が冷めてしまうことの方がずっと多いのかもしれない。

だから、人生において取り返しのつかないことってそんなにないのかもしれないけれど
たいていの人は取り返すことができないんだと思う。



やさしさを勘違いして
本当の気持ちを捨てた
遠くで九月の蝉が鳴いた



嘘だったんだって言ったときに
傷つく人が見たくなくて。。。
というのはただの言い訳で、
本当は自分に失望されたくなかっただけ。

それでも、なにも起きなかったかのように
時間や関係は進んでいく。

ほんとうに咄嗟の嘘なんだけど
それが生んだ気まずさというのは一生続く
人間関係とは、良いほうにも、悪い方にも、進めることは簡単に出来る。
でも、巻き戻してやり直すことは、本当に難しい。
同じ楽しさを繰り返してずっと一緒にいるなんて、絶対に不可能なんじゃないかって勘違いするほど難しい。

 

「同じ鳴き声を繰り返しているはずなのに、九月に聴く蝉の声は切なく聴こえてしまう」

そのくらい、変わらないでいるってのは
難しいことなんだ。


もしもやり直せるなら
どこまで巻き戻そうか
君と初めて出逢った日
それとも好きになった日



じゃあ、もし神さまって奴がこの世界のルールを反省してくれたとして
やり直せるとしたら、どこからやり直すべきなんだ…?

「嘘をついたあの瞬間」でいいじゃないか
って思う?

僕はそれじゃあダメだと思う。
というか、この歌詞にもそんな迷いが表れてる。

だって、嘘は咄嗟についてしまうものだから。
嘘をつく前に戻ったとしても、きっと同じことを繰り返してしまう。

「咄嗟」って、咄嗟だからこそ
本当の人間性が出てしまうと思うんだ。
頭で考えて取り繕えない自分の姿

だから、その一瞬気をつけられたって
きっとどこかで同じ嘘をついてしまうんだと思う

でも、どのタイミングなら訂正できるんだろう
どのタイミングなら言い出せるんだろう

そうやって思い返してみてもやっぱりわからない
もしかしたら、人生の中の取り返しのつかないことというのは、
タイムマシンが開発されたとしても、やっぱり取り返しがつかないものなのかもしれない。


たった一つの秘密
作ってしまっただけで
君と僕は
違う空を見ている



たった一つの秘密をつくっただけで
その気まずさに圧されて…
いつの間にかすれ違っちゃったなぁなんて
無責任な感想を言ってる。
それってどう?と思いつつも
謝るタイミングはとっくに逃した。


だけど その眼差しは
ちゃんと覚えてる
他のことは
全部忘れてるのに…

まるでカメラのシャッター
切ったかのように
僕の嘘が
時間を止めたんだろう



でも、こんなにも自分の嘘にとらわれている理由を考えてみたとき、
こんな風に考えることもある。
「もしかしたら、他の未来があったんじゃないか?」って思うからこそ、とらわれてしまう。

修学旅行で一緒にいるくらいの友人なら、
恋敵同士でも、フェアなライバルとして戦えたんじゃないか?
とか
もっとこの歌詞に寄り添ったなら、
彼女がいる、と嘘をついたときの
あの目は、好きな人に振られたときの目だったに違いない
と思い続けてしまうからだとか。

でももう、嘘で塗り固めてしまったものだから
その真相を確かめることさえ出来なくて
いつか時間が解決てくれると思いながら
写真のように変わらないその風景を
永遠に胸に描き続けるみたいな…



不確かな愛のせいで
傷つけることを怖れた
思いは夕立みたいだった


なんにしたって、後悔し続けるほどつらくなるくらいの思い出なのだ。
そこにあったのが愛だと信じてみることは、根拠のない希望ではないと思う。

 

咄嗟の嘘なんて他にもいくらでもある
なんとなくめんどくさがった飲み会の誘いを体調不良で断ったとかそんなことでも。
その後に後悔するかどうかというのは、その人への思い入れ次第なのだと思う。

でも、なんにしたって嘘は嘘だ。

咄嗟だろうが、嘘をつきたくなってしまうということには、愛の不確かさを感じてしまう。
好きであればあるほど、疑いたくなるんだ。

ましてや、自分なんか嫌われていると思いこみたくなってしまうのだ。
心のどこかで、あのまなざしに期待しながら、どうしようもなく、疑ってしまう。

傷つけたくない。好きだから。
でも本当の愛ってそんなもんじゃない。

傷つけることも込みで、それでも必死で好きでいようっていうのが愛で、
そんな愛なんて持てないから、
ただ、傷つけたくないといいながら、都合の良い嘘にあまんじてしまうのだ。

そう、まるで夕立のように溢れて、冷たく僕たちの関係を遮る。
夕立は濡れてしまえば優しく降り注ぐのに、人々は息を潜めて隠れてしまう。
僕が咄嗟の嘘に隠れたみたいに。


なぜかこれでよかったと
今では思えてしまう
だって 心の片隅に
こんな痛みがあるから
もしも正直だったら
痛みも何もないまま
僕はもっとズルい人になってた


タイムマシンでさえ取り返せないほど時間が経った今を、これでよかったと思えてしまう時もある。
だって、改変した未来で幸せになれるなんて限らないから。

もしかしたら親友と恋敵になった時は、

血で血を争うような戦いをして、
どうしようもなく傷ついて、負けるかもしれない。

好きな人に突然告白してしまったら、友達ですら居られなくなってしまったかもしれない。

嘘は、優しく僕たちをかばってくれる。

もし、咄嗟の嘘に逃げなければ

他のところでつじつまを合わせていたかもしれない。

親友にカッコつけて自分の気持ちを覆い隠したり
本当は気まずくて仕方ないのに
「友達でいようね」なんて涙をぬぐって宣言したり。

でもさ、案外そんなことをした関係って
あっさり冷めて終わったりする。

ちゃんと告白して、スッキリしたらさ
人間、案外先に進めたりするんだよね。

でもそれって「ズルい」かもしれない。
やっぱり、嘘というタイムマシンに時を止められて
その時の痛みという恋心を持ち続けていること。
その方が、人間的な恋愛かもしれないジャン?


もしもやり直せるなら
どこまで巻き戻そうか
君と初めて出逢った日
それとも好きになった日
たった一つの秘密
作ってしまっただけで
君と僕は
違う空を見ている


昔を振り返って後悔することはたくさんある。
それが、自分の嘘ならなおさら。

あらゆるIFの世界を想像してしまうけど、
それはもちろん幸せな世界ばっかりじゃない。

でも、そのくらい「タイミング」って大事なんだと思う。
スーパーヒーローは、必ず手遅れになる前にやってくるでしょ。

必要なときに、必要な人がやってくる。

そんなことを僕らはスーパーヒーローって呼ぶわけ


だから、やっぱりその時咄嗟についた嘘には、
嘘なんだけど、自分の願望が色濃く滲んでいて
悩み続けた先には、
「結局、同じことになってたのかなぁ」
なんて思えたりする。

 

この曲に描きだされているストーリーは
そんな自己矛盾を抱えながら生きる切なさや心の痛みを持っているんじゃないかなぁ…


だからもし
自分の推しメンや好きな人に
「言ってはいけないことを言ってしまったな」
と後悔している人がいたら、こうしてほしい。

そのことはちゃんと自分の中に抱えたまま
その心の痛みをエネルギーに換えて
それ以上の愛情をいっぱい伝えてほしい

過去は変えられないし
咄嗟の嘘を取り返すことも出来ない

でも、人と人との関係性は
戻すことは出来なくても、前に進めることは出来るから。

初めて会った日でもなく
好きになった日でもなく

今日、今この瞬間から
その嘘で出来た隙間を埋める努力を始めてほしい

それが、なによりのタイムマシンになると思う



以上
お付き合いいただき、ありがとうございました。

かがやき