学水舎 代表の語録(R020321

『徒然なるままに~(人間)引力と斥力』

加賀海 士郎

予期せぬ形の春休み、常なら五月連休までは殆ど休みらしい休みの無いはずが、

想定外の難敵に出くわし、とんでもない長期休暇となった。

どうやら人間というもの、つくづく独りでは生きられぬように出来ているらしい。

長らくひと所に引き籠って居ると、妙に誰彼となく恋しくなる。

日頃はそれほどでもない人間が、無性に恋しく想え、

口を利きたくなるから不思議だ。

 

察するに人間(じんかん)には目に見えぬ力が働くものらしい。

常ならば左程でもないのに、何か磁場のようにストレスがかかれば

人間同士にも引力や斥力が働くのだろうか。

そのむかし若かりし頃、青春という磁場に在っては、

理由(わけ)もなく強い力に惹かれ、我を失ってしまった。

それはまるで互いの意思とは関わりなく、惹かれ合う者を生み出し、

半面、無用のものを遠ざけようとする、誰に吹き込まれたものか、

誰が操っているのか、そこには大いなる引力と斥力が働く、

誰もその力に抗うことは叶わず、見えざる力の為すがまま、

身を任せるしか術(すべ)はないのか、果たしてそれが運命(さだめ)なのか、

否、どんな色に惹かれるかは前世からの定めかもしれぬが、

どんな色を選ぶかは自らの意思によるところ、現世は己が選択の結果を映すのみ。

 

往年の輝かしい日々、仕事という磁場に身を置きし時、

卓抜した能力に憧れ見習うべき先達に惹かれた。

逆に己の伸長を妨げるものを遠ざけ、足らざる部分を補うものを求めた、

無益の闘争を回避し、有益な同士との友好を深めた。

時に切磋琢磨するライバルを互いに認め合い、競争心をたぎらせたが、

競争は必ず優劣を明らかにし、勝者と敗者を生み出した。

 

哀しいかな生身の人は、その結果を冷静に受け止めること叶わず、

妬みや嫉みをもたらし、他方、傲りや慢心を育くんだ。

憂き世とは文字通り、理屈通りには回らず、

情が絡み煩悩が渦巻く、混沌の深い海、

その渦中でもがき、葛藤しながら終の世界に近付くのみ、

そこは来世へと続く途(みち)。

 

徒然なるままに思い巡らせば、人もまた素粒子の如く飛び回るも、

環境や世間という名の磁場や縁に左右されているらしい、

人は一体、何処から来て何処へ往くのか? (完)