今回はテレビの前にある鏡の話をしたい。
あるとき私がテレビ初公開の映画を見ていると独りでに画面が消えた。
ちょうど映画は山場に差し掛かったところで、私は恐るべき速さで電源ONの命令を赤外線に乗せて物言わぬテレビに撃った。
惚れ惚れするような早撃ちであった。
ところがテレビは、無表情のままだった。
「どうしたというのだ……」
私がつぶやくと、テレビは言った。
この仕事はつまらないことこの上ない。だって自分は画面が見えないから、音しか聞こえない。毎日毎日同じ、景色と同じ顔。
私はテレビに同情を禁じえなかった。
私は考えた末、テレビに画面が見えるように鏡を配置したのである。
それ以来テレビはご機嫌になったのだが、いくつか弊害がある。
まず、家に誰もいなくてもテレビはついている。彼はとんでもないテレビっ子なのだ。
そしてテレビとチャンネル争いをしなくてはならなくなった。
その気になれば、リモコンを無視するできるのでこっちに軍配が上がるはずはない。
まったくもって面倒なことになった。
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