最近では若者の中に定着したみたいな「それでいいじゃん」とか、「そこにあるじゃん」といった「〜じゃん」いう使い方はもともと静岡県の付近にあった方言ですし、最近のNHK朝ドラで流行語となった「じぇじぇじぇ」は物珍しさと新鮮な驚きで使われています。
いまや方言は、地域をアピールする重要なアイテムで、もはやコンプレックスではなくてブランド化しつつあります。
「ふるさとの 訛なつかし 停車場の 人ごみの中に そを聴きにゆく」石川啄木の短歌に詠まれているように、方言の魅力は、生まれた土地のことばであるので「安らぎ」を与えて安心感を得ることができます。
読売新聞に東京女子大学教授の篠崎晃一さんによる「方言探偵団」が20134月から連載されています。ここ一年に掲載されたものを転載してみました。

(方言 第32回) じんだはん(富山県)
 
イメージ 1
富山の知人から土産にもらった豆菓子「方言豆知識」の包装紙が面白い。そこには51語の富山方言が並んでいる。早速学生たちに見せたところ、「警察官の言い方にも方言があるんだ!」と興味を示した方言が「じんだはん」。なるほど、職業の呼び方に地域差がある点に着目するとは、感心である。
 「じんだはん」の「はん」は、関西で「番頭はん」「あんたはん」などのように使われる敬称。「じんだ」は、江戸末期、江戸市中を警固した役人「巡邏 ( じゅんら )」の変化した形。「半熟卵」をつい、「はんじく」と発音してしまう現象と同じだ。ちなみに、巡邏は明治初期に巡査と改称される。
 かつては、泣きわめいたり、いたずらを重ねる子供に、「悪さしてっと、じんだはんくっぞっ」などと脅してしつけたようだ。脅しの手段として登場するのは、鬼や人さらいなど地域によって様々だ。
 今では、「おまわりさん」と親しみを込めて呼ばれ、子供たちが将来なりたい職業にもランクインする警察官も、昔はひどく怖がられる対象だったようだ。
 
(方言探偵団  じんだはん(富山県)読売新聞20141010日)
 
篠崎晃一

1957年千葉県生まれ。東京女子大学教授。専門は方言学・社会言語学。著書に『アレ何?大事典』『日本語でなまらナイト』『ウソ読みで引ける難読語辞典』『ことばのえじてん』、『例解新国語辞典第8版』、『出身地がわかる方言』、『えっ?これって方言なの!? -マンガで気づく日本人でも知らない日本語』『えっ?これっておかしいの!? マンガで気づく間違った日本語』など。

 
mont-livre