20年近く前になろうか。
京都では北野天満宮で毎月天神さんが催され、古着や屋台が立ち並んでいた。
貧乏劇団員達は、そこで舞台衣装などをまとめて買いつけたりしていた。
私も例外ではなく、そういった古着で衣装をまかなっていた。
中でも思い出に残るのは、何気に買ったハット。
ずいぶん手入れが行き届き質感の良いハットだったので、多少小さかったが舞台衣装として使う程度なので、まあ良いかと思い購入した。
舞台が終わり、あまりに綺麗なハットだったのでしばらく部屋に飾っておいた。
日常かぶるには小さかったからだ。

帽子の裏にはBORSALINOと刻まれていた。

月日が経ち、京都から東京に出てくる事になった。
日常不要なものは極力捨て去った。

普段、帽子はあまりかぶらないのだが、東京に出て来てたまたま通りがかった帽子屋さんの店先に至極綺麗な美しいハットが飾られていた。帽子なのに目が飛び出るような値段だった。

BORSALINO

あの時、捨ててしまった帽子と同じ文字…。
食い入るように見ていたので、帽子屋さんは丁寧にその帽子の説明をしてくれた。

以来、BORSALINOは私の憧れとなった。
Ray-Banのサングラスが三つは買える高価な帽子…。

お洒落好きな義父もBORSALINOは持っていなかった。

「だって、あれはハットだろ。」

そう、ボルサリーノはハットでなくてはならない。
その思いはいつも持ち続けていた…。

先程、思い切ってBORSALINOを注文した。

妻には一応、相談したのだが、あなたがそこまで言うのならと許してくれた。

本当によく出来た妻である…。