○2023年10月14日(土) 14:00- 於:東京文化会館
二期会創立70周年記念公演 東京二期会オペラ劇場
ジュゼッペ・ヴェルディ「ドン・カルロ(Don Carlo)」 全5幕イタリア語上演


本日はヴェルディ中期の傑作とされる「ドン・カルロ」、先日の「ジュリオ・チェーザレ」と打って変わって、近代の重厚なオペラという印象二期会としては、本年2月に観たプッチーニ「トゥーランドット」以来となります。もちろん「ドン・カルロ」に関しては、全くの初見です💦

「ドン・カルロ」にはいろんなヴァージョンがあるようですが、今回はイタリア語版全5幕もの、通しで約3時間半という大部なもの1-2幕後と3幕後にそれぞれ20分ずつの休憩時間を入れると計約4時間15分という長丁場です😅

しかし長さに相応しく聴きごたえのある曲が目白押しとのことで、“友情の二重唱“とかは聴いたことがありますが、確かに素晴らしい曲だと思いましたこのほか主要登場人物にはそれぞれ重要で難しいアリアが用意され、実力のある歌手を多く揃えないといけないため、中々上演される機会がないのだとか💦
二期会としても今回、その総力を挙げての上演ということでしょうか。

また、今回はシュトゥットガルト州立劇場との提携公演ということで、その演出がそのまま?踏襲されるようですが、元々結構長くて分かりづらい筋のお話がどう解釈されているかも気になりつつ上野のお山に行って参りました

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○キャスト等:
指揮 レオナルド・シーニ(Leonardo Sini)
演出 ロッテ・デ・ベア(Lotte De Beer)

ドン・カルロ(T)       城宏憲
エリザベッタ(S)       木下美穂子
フィリッポ2世(B)     妻屋秀和
ロドリーゴ(Br)         清水勇磨
エボリ公女(Ms)        加藤のぞみ
宗教裁判長(B)          大塚博章
テバルド(S)              守谷由香
修道士(B)                 清水宏樹
レルマ伯爵/王室の布告者(T)  児玉和弘   
天よりの声(S)          天笠佳奈
その他

合唱 二期会合唱団
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団

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○感想:
うーん、またまた評価が難しい公演でした😅
キャストのパフォーマンスには殆ど不満はない、というか、皆さんとても良かったと思います

?マークが多々浮かんだのは演出ですかね💦出演者の方もどこかでおっしゃっていたように、かなり「攻めた」演出ということだと思いますが、私のように保守的旧守的な人間にはちょっと分かりづらかったかな、という感じです

舞台美術としては、非常にシンプルで、120度に開いた巨大な本を立てたような黒っぽい壁が舞台上で回転しながら、権力者と被統治者、宗教権力と世俗権力、新教派と旧教派など、様々な分断、対立を表現するあたり、なかなか考えているなあと思いましたが、頻出する白いベッドとか、やたらすぐ下着姿になる登場人物とか気になる点多数😅しかし、なんと言っても一番の疑問点は大ラス、幕切れ直前のシーンでしょうか。

ネタバレになるので詳述しませんが、wikiやどの解説本でもここは、「修道士(=カルロ5世?)の亡霊によってカルロは霊廟(墓所)に引き込まれていく」となっているのですが、今日の演出は....???
おかげで終演時も客席からは拍手はもちろんそれなりにあったものの、ザワザワした呟きのような、どよめきのようなものが伝わってきました😅

この海外劇場との提携公演、丸ごと海外劇場の演出、美術、衣装を持ってきて、オケと演者は自前でという、いわば「居抜き公演」
にわかファンかつ素人の偏見ですが、ドイツ系の劇場ではいわゆる「攻めた」演出が多い気がします💦演出家が偉いのか、オペラが世界で一番上演されるお国柄だけに、通常の演出ではお客さんが飽きてしまって満足しないのでしょうかね?

個人的には、これはミュージカルでも同じですが、いわゆる傑作名作とされる作品は、そもそも本(脚本)が良くて音楽(曲)も良い(故に普遍性もある)というのが通常なので、あとは普通にやって(パフォーマンスして)くれれば、問題なく楽しめる、というのが自論で、あまり余計なこと(失礼!)はせずに、オリジナルに近い形で上演して欲しい方です

ト書きに書いてないことや、本(脚本)に表れていないことを埋めるのは演出の役割だとは思いますが、筋や重要な要素を変更してしまうのはちょっと行き過ぎのような気がします。
 

前回の二期会「トゥーランドット」もこの「居抜き公演」形式だったのですが、やはり演出には個人的にはあまり感心しませんでしたまあ、一から演出したりロジを考えたり舞台や衣装を準備しなくて良いので、結果的には安くつくのかも知れませんが、演出家や舞台関係者を育てる意味でも安易に海外演出に頼らないで欲しいという気持ちもあります


さて肝腎のキャストですが、非常に頑張っていたと思います。この演目、タイトルこそ「ドン・カルロ」ですが、本当の主人公はエリザベッタではないのかと思うくらいなのですが、そのエリザベッタを演じた木下美穂子さん、素晴らしかったですドラマティックにもリリカルにも歌えるヴァーサタイルなソプラノで、アリアも重唱も良かったのですが、やっぱり一番良かったのは5幕のアリア「世のむなしさを知る神よ」でしょうか拍手が中々鳴り止まなかったです

そして次に好感度の高い😅ロドリーゴを演じた清水勇磨さんもとても良かったですこちらも例のカルロとの“友情の二重唱“も良かったのですが4幕の「私は満ち足りて死んでいきます」がやはり万雷の拍手誠実で高貴な役柄を朗々と演じて、美味しいところをみんな持って行って死んでいった感じでした

さらにフィリッポ2世の妻屋さん、エボリ公女の加藤のぞみさんも、それぞれのアリア「一人寂しく眠ろう」、「呪わしき美貌」が抜群の出来でしたし、重唱、演技とも安定の出来妻屋さんは貫禄を見せながらも苦悩する王の孤独な心情を好演、加藤さんは、嫉妬を募らせるエボリ公女がエリゼベッタを睨みつけるところなどは迫真の演技で怖かったです😅

これに対し、タイトルロールの城宏憲さんは損な役回りですね💦高貴で崇高、自己犠牲や自らの義務を自覚しているエリザベッタやロドリーゴに比べて、一目惚れしたエリザベッタとの恋に敗れて意気消沈した後も想いを捨てきれず、彼女に執着している駄々っ子のようなボンボンいう感じ(笑)歌の方では城さんも頑張っておられ、“友情の二重唱“だけでなく、1幕の「あの人を見て」などもちろんアリアもありますし、相変わらずイケボでお上手だったのですが、どうにも影が薄い存在でちょっとお気の毒な気がしました😅
この存在感のなさは、元々のお話のせいもありますが、多分に演出の意図もあるかと思います。そのあたり、例えば、カルロの独りシーンで、夢の中かどうか分かりませんが、何度か(二度?)遊戯に興じる子供たちが登場したり、ロドリーゴが死に瀕した場面では、手を取ってくれるよう願う友から顔を背けて、ただただ悲嘆に暮れていたりと、カルロの幼児性を強調するような演出がされていました。

このほかの脇を固める方々、宗教裁判長、テバルド、修道士なども頑張っておられましたダブルキャストなので、もう一組このレベルの方々を揃えた訳で、さすが二期会といったところでしょうか

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ということで、繰り返しになりますが、キャスト(指揮、オケを含む)のパフォーマンスに関してはほとんど不満はなく非常に満足したのですが、この演目は初見でもあり普通の演出で観たかったかなという感じ(前回の二期会「トゥーランドット」の時も同じ所感でした💦)。

他方で本演目が、素晴らしいアリアの数々、さらに二重唱、三重唱等も実に見事、合唱もいかにもヴェルディらしい響きと重厚さ、オーケストレーションの素晴らしさも言わずもがなで、計約4時間半を感じさせない大変な傑作であることは十分納得できたのが、一番大きな収穫と言えるでしょうか。

今日は土曜マチネ、二期会が総力を挙げて(たぶん😅)取り組んだ、滅多に上演されない(とされているようです)傑作であるにも関わらず、客席の入りは6-7割だったでしょうか。1階席センターブロックでさえ、通路後方になると、4列目以降はガラガラの有様、3階席R、L側も1列目以外はまばらの状態老婆心ながら日本のオペラ界に危機感さえ覚えましたもちろん今日のキャストが、金曜/日曜のキャストに遜色があるわけでもありません。昨日の客入り、明日の客入りも気になるところです

先日のローマ歌劇場来日公演は、あの高額料金にも関わらず、ほぼ満席の状態でしたから、オペラファンはそこそこいる訳で、生意気にも、何が問題なのか分析検討する必要があるのでは、と思いながら会場を後にした次第です💦



○評価:☆☆☆★