○2023年4月22日(土) 10:00-15:00 
MET LIVE VIEWING 2022-2023  ワーグナー「ローエングリン(Lohengrin)」  於:新宿ピカデリー
(2023年3月18日メトロポリタン劇場で上演)

今シーズンのMET LIVE VIEWING第5弾はワーグナー!ワーグナーのオペラ(楽劇)は、音楽は素晴らしいけどやたら長いという先入観があり、かなり迷ったものの、にわかオペラファンを自称するからには、やはり食わず嫌いはいかんだろうということで😅思い切って行ってきた次第です

「ローエングリン」はもちろん初見ですが、第3幕の前奏曲は管弦楽曲集などでお馴染み、MET LIVE  VIEWINGのテーマ曲?にもなっています。また、メンデルスゾーンの結婚行進曲と並んで高名な「婚礼の合唱」がローエングリンから来ているとは、あまり意識したことはなかったです(笑)

劇場は最近のお気に入り、新宿ピカデリーMETライブは、都心ではあと東劇でも見られるのですが、あそこは古すぎてスクリーンを見上げる形となり、とても長時間(休憩を入れて約5時間)の視聴に耐えられそうにないのでほぼ一択です💦

今シーズンのMETライブは、「椿姫」「めぐりあう時間たち」「フェドーラ」と見てきてどれも良かったので、スケールの大きなワーグナー作品をどう再現しているか、また、近年売れっ子のテナーながら比較的軽めの声のピョートル・ベチャワがワーグナー作品にフィットしているか、さらに来月のサントリー・ホールの「エレクトラ」でタイトルロールを演じるクリスティーン・ガーキーの実力がどれほどなのか、興味津々で観てきました

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○キャスト等:
演出 フランソワ・ジラール

指揮 ヤニック・ネゼ=セガン
 
ローエングリン(T)  ピョートル・ベチャワ
エルザ(S)  タマラ・ウィルソン
オルトルート(S)  クリスティーン・ガーキー
テルラムント(B.Br)  エフゲニー・ニキティン
ハインリヒ(B)  ギュンター・グロイスベック
伝令(herald)(B.Br)   ブライアン・マリガン


○感想:
いやー凄かったです が、さすがに休憩時間を入れて約5時間は疲れました😅

知りませんでしたが、140年のMETの歴史の中で、ローエングリンはワーグナー作品の中では、もっとも上演回数の多い演目だそうです。そういった意味で、毎回この演目の公演にはMETも力が入っているようで、豪華なキャスティングもそうですが、舞台設備も、スケールの大きな音楽にはスケールの大きな舞台で応じていました。

細かい装飾や小道具大道具の類はあまり見当たらず、石の階段状になった広場の上に大きな石の天蓋が斜めに被さっており、その天蓋の真ん中には大きな丸い穴が空いていて、そこから外界が透けて見える構造。その外界はプロジェクトマッピングで、月の満ち欠けを映したり、超新星爆発?みたいなものを投影したりする趣向。

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3幕では垂直に切り立った大きな崖のようなものの間で演技が始まるのですが、途中でその崖が全部天井方向に消えていって、1幕、2幕の石の天蓋が被さった広場のシーンに戻るというかなり大掛かりな仕掛けでしたお金がかかってます(笑)

休憩時間に流れた演出家や美術担当の解説によれば、未来の地球を舞台としてイメージしたらしく、確かに中世的な雰囲気はありつつも、寓話的で時代と時間を超越した感じはありました。

また、面白かったのは会衆=アンサンブル(合唱とダンサー)の衣装で、袖の長いマントのような長衣を着ているのですが、両腕を広げたときに、衣の内側の色を白、赤、黒(緑?)に変えられるような仕掛けになっており、全員が真っ白な衣装になったかと思えば、左半分のアンサンブルが赤、右半分が白、など場面に応じて会衆の衣装を一瞬で変化させることで、その心理状態を描写するという工夫がされていました。衣装を重ねてそこにマグネットが仕掛けてあるとのことで、これもお金がかかってます😅

衣装に関しては、他のプリンシパルが中世っぽい格好をしている中で、ひとりローエングリンのベチャワだけが、白いシャツに黒いパンツの普通の現代人っぽい格好これもペチャワや美術担当の話によれば、
ローエングリンは異世界から来た人間、ある意味宇宙人みたいなもので、他方、格好は普通の労働者っぽくすることで、英雄やヒーローとしての存在を際立たせる意図のようでした。


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肝腎のキャストの感想ですが、タイトルロール、ローエングリンのピョートル・ベチャワ、さすがの出来でした声質的にどうかなあと思っていたのですが、大オーケストラの重厚なサウンドにも負けず、強い声を出していました。本人もインタビューで言っていた通り、3幕はテノールにとって厳しい場面が連続しているのですが、最後までテンションを保って頑張っていました

次いでエルザのタマラ・ウィルソン、ワーグナー作品の役は初めてだそうですが、フレージングの美しいリリカルな声に強さも備えたソプラノで、清らかな公女役を好演過去にMETでアイーダも演じたそうですので、ドラマティックな役柄でMETでどんどん使われそうな感じです。

対するオルトルートのクリスティン・ガーキーがまた素晴らしかったですマクベス夫人と魔女を足したような役柄なのですが😅本人もインタビューで楽しいと言っていたように、敵役を実に生き生きと造形してくれましたし、ワーグナー歌いとして評価が高いだけあって、その歌声は迫力満点これは5月の「エレクトラ」が楽しみになってきました

他のプリンシパルたちも強力な布陣でドラマを盛り立てていましたが、何と言っても総勢130人の合唱が凄かったですソリスト、合唱、オケがトゥッティで奏でる轟々たるサウンドの迫力は、画面越し、スピーカー越しにも十分感じられましたが、やっぱり会場で生で味わいたい気がしました

相変わらず、このシリーズは途中のインタビューがとても参考になるもので、指揮者のヤニック・ネゼ=セガンが、この作品でのワーグナー(楽劇理論完成前?)は、まだライトモチーフ、モチーフの細かな活用はそれほででもなく、調性と和声が重要とか言って、ハインリヒがハ長調、ローエングリンがイ長調、エルザが変イ長調、オルトルートとテルラムントがイ短調とか(聞き間違っていたらごめんなさい💦)から、キャラ同士の関係、相性を語っていたのが面白かったです。

ということで長丁場で少々疲れたものの(1幕後の休憩時に軽食をとったため、2幕冒頭は少し意識が飛びかけましたが😅)、思っていたよりは短く感じた初ワーグナー。これなら今後もイケそうな気がしてきました(笑)

熱狂的なファンが多いことでも知られるワーグナーものだけに、今日は土曜日とは言え、客席は8~9割の入りで男性客が多い感じ。前回、前々回の「めぐりあう時間たち」「フェドーラ」とはだいぶ違います💦

また、改めて聴いて見ると、時折聞ける勇壮でわかりやすいメロディに見られるような、どことなくマスキュリンな管弦楽、愛国的でスケールの大きなドラマ、キリスト教中心的な宗教観など、ヒトラーやナチに利用されるのも無理はないな、という感じもしましたもちろん、それがワーグナーの音楽の革新性や意義、魅力を損なうものではありませんが

新国立劇場でも今シーズンは「タンホイザー」をやっていたのですが、食わず嫌いで敬遠してしまっていたのが悔やまれます来シーズンは「トリスタンとイゾルデ」が予定されていますので、絶対見なければと心に誓った次第です

○評価:☆☆☆★