○2022年9月18日(日) マチネ  「ヘンリー8世」  於: 彩の国さいたま芸術劇場大ホール 

7946DDD0-18C4-4C3D-9AFD-3D3F1D3E470B2020年に彩の国シェイクスピア・シリーズ第35弾として上演されるも、コロナ禍で途中休止となった本作。演出の吉田鋼太郎氏の呼びかけでキャスト、スタッフが再集結しての再演となります

本シリーズは、 昨年5月の「終わりよければすべてよし」しか見ていませんが、結構面白かったことと、今回阿部寛さんが演じるヘンリー8世がどんなものになるか興味があったことから、遠路😅はるばる与野市まで遠征してきました。

 

 

 

○キャスト:

A9D0507D-BE67-4C1E-8F27-34D740F899B2ヘンリー8世 阿部寛
ウルジー枢機卿 吉田鋼太郎
キャサリン妃 宮本裕子
トマス・クランマー(カンタベリー大司教) 金子大地
アン・ブーリン 山谷花純
バッキングガム公爵 谷田歩
河内大和 ノーフォーク公爵




○感想:
台風14号の影響で与野本町に降り立ったときは既に大雨☔️駅で若干雨脚が弱まるのを待つも収まる気配がないため、劇場に向かったところ滝のような豪雨となり、歩道は川のように
着いた時は靴はもちろん、上から下までぐっしょり。埼京線の遅延で上演開始時間も15分遅れ。ぐちゃぐちゃの足元やずぶ濡れのシャツやパンツ、さらに体の冷えが気になる中での観劇となってしまいました

閑話休題

中々面白かったです

お話の筋としては、
「強大な王権を確立し、臣下を睥睨するヘンリー8世の信頼厚く、権勢を得た枢機卿ウルジーは、陰謀をめぐらし、バッキンガム公爵をはじめ、次々に無実の政敵をおい落とし、権力の頂点に立つ。一方、ヘンリーは、男子の世継ぎに恵まれないキャサリン妃から、若く美しい侍女のアン・ブーリンに心を移し、キャサリン妃と離婚しようと画策、キャサリンは背後で王を操るウルジーと激しく対立するも、裁判で一方的に婚姻の無効を宣言され、王妃の座を追われる。驕り高ぶっていたウルジーだが、些細なミスから一気に王の信頼を失い、反感を買っていた諸侯たちに追い落とされる形で失脚、失意のうちに病死する。そんな中、新たな妃となったアン・ブーリンに王女エリザベスが誕生、盛大な祝いの宴が始まる...」
といった感じです(参考:シェイクスピアを読む7)。

ということで、基本的には、シェイクスピア(と弟子のジョン・フレッチャーとの共作)がジェームズ1世治世下において、先王のエリザベス1世の正統性とその先の約束された栄光の御代をヨイショするというお話で、戦乱が落ち着いた後の宮廷内の権力闘争の有様、権力の座の儚さ、虚しさを描いた内幕物の要素も含んだドラマで、シェイクスピア最後の戯曲とされています。

ヘンリー8世と言えば、キャサリン(・オブ・アラゴン)を離婚したいがために、ローマ教会のくびきを離れて英国国教会を創設し、自らをそのトップの座に据えたこと、そうまでして結婚したアン・ブーリンにもその後不貞の罪を着せて斬首、さらにその後4人の妻を取っ替え引っ替え(うち1人はやっぱり斬首刑)するなど、放縦と専制を極めた独裁者として悪名高い(他方、知性と教養に溢れ、教会権力を弱め、中央集権の基盤を築いた名君主としての評価も)王ですが、上記のような事情から、エリザベス1世の父親たるヘンリー8世の好色と凶暴さの描写は控えめ、自らの足下での臣下同士の権力争いを苦々しく眺めつつも、世継ぎ問題に苦悩する(比較的😅)まともな王として描かれています。戯曲自体もエリザベス1世の誕生で終幕となり、その後の妃をめぐるホラーには触れられていません(笑)

ということで、プログラム中の出演者の方のコメントにもありますが、戯曲自体は読んでそれほど面白くはなくシェイクスピアの歴史劇の中でも、さほど評価は高くなく知名度も低い方だと思いますが、なんといっても元々ヘンリー8世のキャラが立っている上、ウルジー枢機卿も相当癖のある人間であることに加え、それらを彼らに負けないくらい?濃いキャラの阿部寛や吉田鋼太郎が演じていることで、作品の面白さが3倍増しくらいになっています😅

実際阿部寛はヘンリー8世を演じるに当たって、日本にこれ以上の俳優はいないだろうという適役ぶりで、その堂々たる体躯から発散される圧倒的な威圧感、エネルギーは客席から見ていても恐ろしさを感じるくらい。舞台に立つ役者さんたちはさぞ怖かったことでしょう💦それでいて冷酷粗野一辺倒ではなく、繊細や知性も感じさせるところはさすがでした

そして傲慢、狡猾、権力の亡者たる枢機卿ウルジーを演じた吉田鋼太郎は、相変わらずの自在の演技権力の座から真っ逆さまに落ちていく自分を自覚するシーンでは、滑稽な様にも哀れさと一片の真情を感じさせる台詞回しは座長の面目躍如といったところでしょうか。阿部寛と並んで存在感抜群でした

そしてキャサリンの宮本裕子さん。過酷な運命の下、妃として、スペイン王女としての誇りを失わず、毅然とした立ち居振る舞いを見せる一方で、ヘンリーの愛と信頼を最後まで希求する女として弱さ、脆さも見事に表現していました

また、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で源頼家を演じた金子大地くんがカンタベリー大司教トマス・クランマーを、同じく「鎌倉殿の13人」で頼家の側室を演じた山谷純花さんがアン・ブーリンを熱演その他の常連の役者さんたちもお上手でした。皆さん、再演ということもあるでしょうが、あの長台詞をつっかえずに発するだけでも大変だったかと思います

演出面で面白かったのは、まずは、終幕前、エリザベスの生誕祝いの場面で、ヘンリー8世や妃となったアン・ブーリン、司教、貴族諸侯らが後方の入り口から舞台に向かってお列が進むのですが、その際、あらかじめ観客に手渡された王室の紋章入りの小旗を振るよう促されること
観客をお列の見物客と見立てての演出で、間近に役者さんが通るのを見ることができることもあり、見どころの一つと言えるでしょう

次に、大きなマントルピースの上のあたりに、今回の劇の音楽担当のサミエルさんが陣取って特殊な弦楽器「ピクシーコード」(ハープシコードやチェンバロをさらに原始的にしたようなもの?)を弾いておられたこと。音楽も静謐で古典的な中にも、非常に劇的でロマンチックなものを感じるメロディで、随伴音楽として効果を上げていたと思います。それとそのマントルピース周辺で役者さんが演じる場面がいくつかあるのですが、その時はどうやらマイクで音を拾って拡声していたような気がします。あれだけ距離があると生声では聞き取りにくいでしょうから、良いアイディアだと思いました。

さらに、ちょっと驚いたのは、途中、キャサリンの付き人グリフィス役の人が歌を1曲歌う場面があったこと。佐々木誠さんという役者さんが演じていましたが、元々ミュージカルでも活躍している人のようで、大変お上手でした。その他、キャサリンの侍女たちのダンスシーンもあり、割と総合芸術風な演出が施されていて面白かったです。

ということで、大雨のため、冒頭書いたように観劇状況としては最悪に近いものがありましたが、お芝居は十分楽しむことができました
カーテンコールでは満席(今日は補助席も設けてありました)のお客さんのほとんどがスタオベを送る中、吉田鋼太郎氏は、一旦捌けはじめた役者さんを再度呼び集め、客席に向かって、足元の悪い中見に来てくれたことへの御礼を述べて居られましたが、その願いが叶ったか、劇場から与野本町までの間は、奇跡的に雨も上がり、晴れ間も覗けるほどでした
確か、同じシリーズの「ジョン王」は丸ごと上演中止になったままだったような気がしますが、どうするんでしょう?主演予定の小栗旬くんが、大河ドラマが終わればやってくれることを期待したいと思います。

○評価:☆☆☆★