栗山民也さんの演出は、初めて見ました。



アンチゴーヌ in北九州芸術劇場

結論から言うと、
この舞台に出会い、空間を共有できたことに感謝したいくらい、私は感動している。

己の良心に従い、嫌なものをNoと言える、純粋なアンチゴーヌ。
国家の主人として、個を押し殺し、Yesと言う選択しか持たなかった王、クレオン。

理想と現実、純粋と経験。

対比が美しく、
ぶつかり合う熱に、心が揺さぶられる。

平穏無事を良しとして、
波風立てないようにYesと言う社会。
正義を貫こうと、Noを高らかに宣言する迷いなき個人。

穢れを知らないものが、
誰のためでもない、己のために戦い、
正義のために死を望んだとき、
見えないところで『料理された』現実を目の当たりにして絶望してもなお、
無意味な死を、拒むことはしなかった。

『衛兵を呼べ!』

望まないクレオンにそう叫び、
自分を殺すことを要求するアンチゴーヌ。

『衛兵!』

クレオンが苦渋の決断を下し、命令を下したときの表情は、なんとも言えなかった。




舞台on舞台の構造で、
客席と舞台は、小劇場並みに狭い。
十字の隙間に客席があり、
しかも向かいあっているので、
自分が板に付いているような感覚さえ覚える。

いい、この感じ。

役者の指先の動きや息遣いまで聞こえてきて、
観る方も(演る方も)緊張する(と思う)。

もちろん場面転換などなく、
セットは二脚の椅子のみ。

一回席通路まで舞台にして使う仕組みで、
段を設けることで、より対比が引き立つようになっている。

椅子の位置と、コロスの掛け合いが、
難解なギリシャ神話をわかりやすくしてくれる。

そして、どの役者も上手い。生瀬勝久さん贔屓の私だけど、どのひとにも、惚れ惚れする。

会話劇だから一言一句逃したくないのだけど、
そう、蒼井優がどこぞで話していたが、

本当に、役者に『うっとり』してしまって、
いくらか逃してしまった。

しかしながら、緊張感の中に、
くすぐるセリフが入るのは、
脚本のクオリティーの高さ。
上演され続けているのは、それなりに理由があるということがうなづける。

年配の人が多かったせいか、
舞台が始まる前の、
誰も話さない緊張感が、
私は気に入っている。




かなり長文になりましたが、それには理由があると言うわけで。昔だったら違うかもしれないけれど、悲しいかな、今はクレオンの心が痛いほどわかる。

実はこれ、2/25に観て、やっぱりもう一度観てみたくて、大千秋楽にもう一回観た。こんなにもう一度観たいと思ったのは、久しぶり。だりんにも見せてあげたかったが、あいにく体調を崩していたので、断念。多分、彼は、クレオン以上に抱えているので、ちょっと肩の荷が下りた気になれるかなぁと思ってたから、本当に残念でならない。DVD化したら、買ってあげようかな?