2005年1月11日(火) ソワレ
 
猫のホテル「土色の恋情」 in スズナリ

作・演出:千葉雅子
出演:中村まこと、池田鉄洋、佐藤真弓、市川しんぺー、森田ガンツ、菅原永二、村上航、岩本靖輝、いけだしん、千葉雅子/辻修(動物電気)、猫背椿(大人計画)

とうとう観た、猫ホテ。ついに行った、スズナリ。
中村さんはナイロンの公演で、千葉さんや猫背さんは映像で観たことはあったが、他の皆様は初見。池田さんや佐藤さんは何かのHPで「面白い」と聞いていたので、「猫ホテ」初体験者としてはこれこそ外せないだろうと、観に行くことを決意した。

ご無沙汰の下北で、人気の少ない通りを歩くこと数分。昭和のそれっぽい雰囲気を漂わせた、やけにブロック体の文字で書かれた看板が、ひっそりと、しかし大胆にその居場所を示していた。中に入ると、人間は新しいのにストアハウスにいた頃を思い出させる煩雑な佇まい。ぶっきらぼうに立った柱は、何ともいえない懐かしい香りがした。

さて、内容へと参りましょう。
いつもこのテイストなのかわからないけれど、時代設定が昭和55年だけあって、ノスタルジックなわりに、どことなく人間臭さが溢れている。流れも至って緩やかで、この感じの芝居は久々に観た気がする。なるべくなら、芝居を見慣れいて、沈黙も苦にならないほど気心の知れた友達と観に行きたい作品であった。
まだ公演中なのでネタバレにならない程度に書いていくと、池鉄さんから放たれる胡散臭さと中村まことさんのボソッと言った言葉の数々にまずやられ、市川しんぺーさんののっそりした風貌と何を考えているのかわからない顔、特に口元に興味をそそられた。佐藤真弓さんは「あぁ、こういうオバサマいるわ」って思うほどリアルで、引けた腰が面白かった。この方も口元がキュート。客演の猫背椿さんは「あれ、こんなに柔らかかった?」と疑問がわくほど懐かしい感じでねぇ、あの三日月みたいな目がいい。市川さん演ずる木下に勘違いを起こされた時の表情が、たまらなくいい。「あっけにとられた」ってこういうことを言うのだろうなと言えるほど、良いんです。同じく客演の辻修さん、正直びっくりしました(猫ホテの役者陣とは少し違う感じがしたので、動物電気の方と知って納得)。面白いという次元を超えているような気がします。あなたの狂いっぷりに、私も狂いそうになりました(池鉄さんが演じた南条の下ネタオンパレードぶりも、狂いそうにはなったが)。個人的には、海老原を演じたいけださんの古い雰囲気がお気に入り。きっとあの時代にはこういう感じのインテリが多かったはず(今じゃ、窓に石ころぶつけたら警報機が作動しちゃうもん)。大きなメガネと対照的な細い目が、何か惹かれるものを感じた。あと、千葉さんの出番を楽しみにしていたので、もっと見たかった。猫背さんとのプチ格闘シーンは、ちょっとさっぱりしつこい感じ。女の汚さはなかったので、よろし。

ここは女性の脚本家なのに、ストーリーは男らしい。女優陣も、雰囲気は女だけど芯は男っぽくて力強い。人間臭いのだが、濃いのではなく引いた感じ。HPで「人間のバカ哀しさ」とあったが、まさにそれだ。
「哀しい」
この言葉が当てはまるのは、昭和の時代ならでは。
役者一人一人も、何を考えているかわからない謎めいた感じで、でもどんな人物にでもすっぽり収まってしまう妙な「しっくり感」がある。焦りがないんだな。「いいんだよ、もう」と言ってそうな、そんな感じ。
もう、自分で書いていてわからなくなってきた。いい言葉が浮かばない。

哀愁だよ、哀愁。経験のなす業だ。

とても私には出せない色を、目の当たりにした気がする。