月影十番勝負 第五番
「僕の美しい人だから」 BS-2 2004/11/7放送
脚本:中島かずき
演出:木野花
出演:高田聖子、池田成志、田中哲司
1999年上演作品。
まだ、私が演劇を軽視していた頃か。高校生の時分だと、理解に苦しむ内容だったんじゃないかと思う。この時期に出会えて、むしろ良かった。
内容:ゴミ捨ての時間に間に合わないミサキ(高田)と、それを見ているマンションの管理人アズマ(田中)。ミサキがぎりぎりまでゴミを出さないのには訳があった。彼女のゴミが、何者かに盗まれていたからだ。ある日、清掃強化週間と言って水道局員(池田)がゴミを取りに来た。が、見るからに怪しい。疑ってかかると、やはり犯人。アズマは捕まえようとしたが、まんまとゴミは持ち去られ、その場に残されたのは、ミサキのゴミ袋から落ちたひとつの「折れ曲がったスプーン」だった。
数日後、アズマが昼食を取っている最中、興信所の人間カネダ(池田)が現れる。曰く、ミサキがゴミの件の調査を依頼したとか。再び、見るからに怪しい男。アズマの推測は間違ってなんか無かった。切羽詰ったカネダが白状したとき、まずいことに玄関にミサキが立っていた。「やりなおして~」と迫るカネダ。どうやら、二人は恋人同士だったらしい。ミサキが拒んだとき、カネダの態度は一変。箸立てにさしてあった「曲がったスプーン」を指し「この女は、やめとけ」と叫んで、その場を去った。
ここで、アズマに秘密を打ち明けるミサキ。曰く、超能力があると。昔テレビでもいたスプーン曲げ少年の真似をしたら、その能力に開眼したらしい。「その少年、僕も見ました」やけに納得するアズマ。二人の距離が、ぐっと縮んだ瞬間だった。
ミサキの部屋に、なぜかカネダといる彼女。さっきとはうって変わって、大胆に振舞っている。「ちょっと、小道具の始末、きちんとしてよね。もう少しで落とせそうなのよ。超能力にも、かなり関心持ってるみたい。」なんと二人は、グルだったのだ!“似非”超能力を武器に、アズマを落とすのが作戦らしい。しかし、これまでと違って結構苦戦している。練った結果、アズマ思い込みの“ストーカー”カネダとミサキの仲を、アズマ自身に「切らせよう」という作戦で、話がまとまる。
一方で、アズマと作戦を練るミサキ。超能力の話をすると、思いのほかアズマがのってきた。「実は…」と重い口を開くアズマ。実はテレビの超能力少年はアズマで、彼も超能力を持っているとか。事態は、思わぬ方向へと動き始めた。
実行日。似非と真の超能力があいまって、カネダは作戦通りやられた。「君と一緒に、どこまでも逃げる」、そう告げたアズマに愛おしさを感じつつ、でも何故か心は素直になれないミサキ。「もしそれが本気なら、この人(カネダ)を切って!」。戸惑うも、のこぎりを探しに行くアズマ。一人残ったミサキは、曲がったスプーンを置いて、その場を去る。
戻ってきたアズマに、意識を取り戻したカネダは言う。
「俺もしらないんだよ、ミサキの本当の名前」
…長すぎた。でも、このくらいは書きたくなる話だった。
しょっぱなから良いんだ、この舞台。聖子さんがゴミ袋とともに床にへばりついてるのが、何とも誘う。「何が起きているんだろう?」と考えずにはいられないんです。そして、二人の妙に力んだ話し方。二人の間に愛情があり、それがまだ未完成であることが、空気から感じ取れる。映像で個々まで行くんだから、生だとものすごいのだろうな。アズマとミサキの場面は、とても演劇的にやってるんだけど、ミサキとカネダのシーンは、エチュードでもやっているのかと思うほどナチュラルな感じ。アドリブもあったみたいだけど極々わずかで結局は台本どおりらしく、要は木野さん的演出だった。私は、演劇的リアリズムの方が好き。
それにしても、なるし~は「い~い役者だ~(成志風)」。胡散臭いの大好き!何をやっても、全てが「嘘」に聞こえる。嫌味・怖い・嘘つき好きの私には、たまらない役者だ。何が言いかって、声が裏返るところよ。「そうなんですよね~!」と言う言葉が、“全然そうは思ってない感”を否応なく感じさせる。さすがだ。
哲さんは嫌味な男をやらせると一品だけど、こういう切ない役どころも似合う。声が、意外と優しいんだよな。表情はあまり変わらなくても。顔に出ないのも、時には羨ましく感じる。
そして、聖子さん。何となく新感線的線はぬぐえなかったが、それでも素敵。相変わらず、素敵。きっといつまでも素敵。何故か笑いのテイストがでてきてしまう所をなるしさんにとがめられていたが、しょうがない。そういう性分だから。そこが魅力だから。恥ずかしそうな演技をさせると、たまらなくうまいから。いいの、それが彼女さ。そこが彼女さ!
それと、ラストの音楽が何となくナイロンに思えたのは、私だけかしら?
照明もろうそく使ったりしてて、結構好みの演出。木野花さん、女好みのものを作ってくれる。その割に客席には男性が多かった。そうか、男もこういうの好きなんだ。ふ~ん。
最後に、放送前のインタビューで鈴木裕美さんが「ナチュラルは嫌い」と言っていたが、それは私も思うところで、演劇は「嘘」だから観に行くし楽しめるもの。“日常的”は必要でも、“日常”は極力いらない。この話も、どこまでも「胡散臭い」からな~。そこがいいんだよな。
結局、聖子さん演じるミサキに騙されっぱなしだったわけだし。やられたわ。
「発光するキューピー」の謎は解けないが、タイトル「僕の美しい人だから」の「~だから」ってとこが、気に入ってる私。
「僕の美しい人だから」 BS-2 2004/11/7放送
脚本:中島かずき
演出:木野花
出演:高田聖子、池田成志、田中哲司
1999年上演作品。
まだ、私が演劇を軽視していた頃か。高校生の時分だと、理解に苦しむ内容だったんじゃないかと思う。この時期に出会えて、むしろ良かった。
内容:ゴミ捨ての時間に間に合わないミサキ(高田)と、それを見ているマンションの管理人アズマ(田中)。ミサキがぎりぎりまでゴミを出さないのには訳があった。彼女のゴミが、何者かに盗まれていたからだ。ある日、清掃強化週間と言って水道局員(池田)がゴミを取りに来た。が、見るからに怪しい。疑ってかかると、やはり犯人。アズマは捕まえようとしたが、まんまとゴミは持ち去られ、その場に残されたのは、ミサキのゴミ袋から落ちたひとつの「折れ曲がったスプーン」だった。
数日後、アズマが昼食を取っている最中、興信所の人間カネダ(池田)が現れる。曰く、ミサキがゴミの件の調査を依頼したとか。再び、見るからに怪しい男。アズマの推測は間違ってなんか無かった。切羽詰ったカネダが白状したとき、まずいことに玄関にミサキが立っていた。「やりなおして~」と迫るカネダ。どうやら、二人は恋人同士だったらしい。ミサキが拒んだとき、カネダの態度は一変。箸立てにさしてあった「曲がったスプーン」を指し「この女は、やめとけ」と叫んで、その場を去った。
ここで、アズマに秘密を打ち明けるミサキ。曰く、超能力があると。昔テレビでもいたスプーン曲げ少年の真似をしたら、その能力に開眼したらしい。「その少年、僕も見ました」やけに納得するアズマ。二人の距離が、ぐっと縮んだ瞬間だった。
ミサキの部屋に、なぜかカネダといる彼女。さっきとはうって変わって、大胆に振舞っている。「ちょっと、小道具の始末、きちんとしてよね。もう少しで落とせそうなのよ。超能力にも、かなり関心持ってるみたい。」なんと二人は、グルだったのだ!“似非”超能力を武器に、アズマを落とすのが作戦らしい。しかし、これまでと違って結構苦戦している。練った結果、アズマ思い込みの“ストーカー”カネダとミサキの仲を、アズマ自身に「切らせよう」という作戦で、話がまとまる。
一方で、アズマと作戦を練るミサキ。超能力の話をすると、思いのほかアズマがのってきた。「実は…」と重い口を開くアズマ。実はテレビの超能力少年はアズマで、彼も超能力を持っているとか。事態は、思わぬ方向へと動き始めた。
実行日。似非と真の超能力があいまって、カネダは作戦通りやられた。「君と一緒に、どこまでも逃げる」、そう告げたアズマに愛おしさを感じつつ、でも何故か心は素直になれないミサキ。「もしそれが本気なら、この人(カネダ)を切って!」。戸惑うも、のこぎりを探しに行くアズマ。一人残ったミサキは、曲がったスプーンを置いて、その場を去る。
戻ってきたアズマに、意識を取り戻したカネダは言う。
「俺もしらないんだよ、ミサキの本当の名前」
…長すぎた。でも、このくらいは書きたくなる話だった。
しょっぱなから良いんだ、この舞台。聖子さんがゴミ袋とともに床にへばりついてるのが、何とも誘う。「何が起きているんだろう?」と考えずにはいられないんです。そして、二人の妙に力んだ話し方。二人の間に愛情があり、それがまだ未完成であることが、空気から感じ取れる。映像で個々まで行くんだから、生だとものすごいのだろうな。アズマとミサキの場面は、とても演劇的にやってるんだけど、ミサキとカネダのシーンは、エチュードでもやっているのかと思うほどナチュラルな感じ。アドリブもあったみたいだけど極々わずかで結局は台本どおりらしく、要は木野さん的演出だった。私は、演劇的リアリズムの方が好き。
それにしても、なるし~は「い~い役者だ~(成志風)」。胡散臭いの大好き!何をやっても、全てが「嘘」に聞こえる。嫌味・怖い・嘘つき好きの私には、たまらない役者だ。何が言いかって、声が裏返るところよ。「そうなんですよね~!」と言う言葉が、“全然そうは思ってない感”を否応なく感じさせる。さすがだ。
哲さんは嫌味な男をやらせると一品だけど、こういう切ない役どころも似合う。声が、意外と優しいんだよな。表情はあまり変わらなくても。顔に出ないのも、時には羨ましく感じる。
そして、聖子さん。何となく新感線的線はぬぐえなかったが、それでも素敵。相変わらず、素敵。きっといつまでも素敵。何故か笑いのテイストがでてきてしまう所をなるしさんにとがめられていたが、しょうがない。そういう性分だから。そこが魅力だから。恥ずかしそうな演技をさせると、たまらなくうまいから。いいの、それが彼女さ。そこが彼女さ!
それと、ラストの音楽が何となくナイロンに思えたのは、私だけかしら?
照明もろうそく使ったりしてて、結構好みの演出。木野花さん、女好みのものを作ってくれる。その割に客席には男性が多かった。そうか、男もこういうの好きなんだ。ふ~ん。
最後に、放送前のインタビューで鈴木裕美さんが「ナチュラルは嫌い」と言っていたが、それは私も思うところで、演劇は「嘘」だから観に行くし楽しめるもの。“日常的”は必要でも、“日常”は極力いらない。この話も、どこまでも「胡散臭い」からな~。そこがいいんだよな。
結局、聖子さん演じるミサキに騙されっぱなしだったわけだし。やられたわ。
「発光するキューピー」の謎は解けないが、タイトル「僕の美しい人だから」の「~だから」ってとこが、気に入ってる私。