山田太一のテレビドラマに感銘を受けたことのある人は多いだろう。
『ふぞろいの林檎たち』『早春スケッチブック』『男たちの旅路』……などなど。
それぞれ、「これを見て人生が変わった」という人がたくさんいる。
そういう人たちの話を聞いて、見てみたいと思っている人も少なくないだろう。
最近も、バニラエアの件で、『車輪の一歩』が注目された。
DVDが出ている作品も多いし、レンタルになっている作品もある。
しかし、私がオススメしたいのは、「シナリオを読むこと」だ。
テレビドラマは大勢の人によって作られているわけで、山田太一が書いたのは、シナリオだ。
山田太一作品を純粋に味わうには、シナリオがいい。
オススメなのは、この3冊だ。
いずれも名作中の名作。同時に収録されている短編がまた素晴らしい!
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男たちの旅路 (山田太一セレクション)
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想い出づくり (山田太一セレクション)
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早春スケッチブック (山田太一セレクション)
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ただ、シナリオを読むことにためらいを感じる人も少なくないらしい。
俳優さんの顔を思い浮かべたり、情景を思い浮かべたりするのが面倒くさいというわけだ。
たしかに、そんな読み方をしたら、面倒くさいだろう。映像で見えているほうが、ずっと楽だ。
頭蓋骨を見せられて、顔の肉がついているところを想像してみろと言われるようなものだ。
そんな読み方をしなくてもいいのだ。
小説の場合も、登場人物の顔の映像もないし、情景の映像もない。しかし、それでも問題なく読める。
じつは、シナリオは、小説以上に読みやすい。なにしろ、よけいな文学的な表現がないので。
小説でも、「会話が多いほうが読みやすい」という人がいるが、シナリオはまさにそうだ。会話中心。
ト書きと呼ばれる、動作などの説明も、じつにシンプルにわかりやすく書いてある。
「太郎、バスから降りてくる」などと。
小説のように、「太郎はバスから降りたときに、新しい土地の風を頬に感じ、ぜんぜん知らない土地に来たという心細さに、あらためて胸がしめつけられるようだった」などと、よけいなことが書いてない。だから、ぜんぜん読みやすい。
映像抜きのテレビドラマと思ってしまうから、シナリオが読みにくいのであって、
小説と思って読めば、小説よりずっと読みやすいのだ。
ライトノベルより読みやすいくらいではないかと思う。
とくに山田太一のシナリオは、面白い!
私は、山田太一作品の大半を、まずはシナリオで読んだ。
それで充分に面白かった。夢中になった。
後で映像を見て、もちろん素晴らしいものもあるが、一方でガッカリしたものもある。
ともかく、「シナリオだけでは物足りなかった」と思ったことは、一度もない。
ただ、山田太一のシナリオ本は、その多くが今は入手困難だ。
そんな状況を嘆いてたいのだが、
なんと新刊で山田太一のシナリオ本が出た!
それが上記の3冊だ。
山田太一作品は、今こそまた読まれるべきだと思う。
これほど面白いものは、なかなかない。
今読むと、また新たな発見があるから不思議だ。
放送当時から時間が経過していることで、
かえって作品の普遍性が生き生きと伝わってくる。
ここに描かれているせつなさは、今もまだそのまま人の心をつかんではなさないのだ。
ちなみに、この3冊、三谷幸喜も全部、買って行ったそうだ。(本屋での目撃情報を耳にした)