映画「タイム・リープ TIME LEAP」 | 「絶望名人カフカ」頭木ブログ

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文学紹介者です(文学を論じるのではなく、ただご紹介していきたいと思っています)。
本、映画、音楽、落語、昔話などについて書いていきます。

時間モノの隠れた名作と聞かされて、
観てみた。
佐藤藍子の若い頃の作品だ。

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教えられなければ、ちょっと気づかなかっただろう。
そういうところに、思いがけない佳作が隠れていたりするから、
油断はならない。

肝心のストーリーだが、
タイムリープのところに関しては、なかなか面白い。
「時をかける少女」を踏まえた上で、
新しいアイディアもあり、
よくできていると思う。

青春モノとしてのせつなさもあり、
謎でぐいぐいひっぱっていく。

舞台を無闇に学校から外に広げないところ、
すべてを一週間に収めるところなど、
さすがと思わせる。
SFは、やたらスケールだけ大きくしすぎて、
失敗することがあるが、
中でも、時間モノは、
ただでさえ、時代を飛んだりスケールの拡大が容易なので、危険だ。
極度に限定することで、かえって濃密になる。

殺人事件がからめてあるのだが、
そこはいただけない。
また猟奇殺人だ。
猟奇殺人は便利だ。
強い刺激になるし、
誰でも犯人にできる。
じつは裏の顔がこうだったと言えば、それでOKになる。
だから、ついつい猟期殺人にしたくなるが、
その誘惑に負けてはいけないだろう。

ある雑誌が10代を対象に小説を募集したら、
9割以上に難病で死ぬ登場人物が出てきたそうだ。
もうじき死ぬ人を出せば、
ただ公園にいるだけでも、みんなと普通に話していても、
すべてが印象的なシーンになるので、大便利。

難病と猟期殺人ばかりが多いのは、
ストーリーを作る能力の枯渇としか言いようがない。

犯人の猟奇性と、バリ島の音楽をからめてあるのが、
これがいちばんよくない。
こういうことは本当にやめてほしい。

かつて、「リップスティック」という映画で、
現代音楽の電子音楽を聴くと、
レイプをしたくなる男が出てきた。
まったく、とほほだ……。
電子音楽が嫌いでもいいけど、
変なものと勝手に結びつけないでほしい。

話がズレたが、
時間モノとしてのデキはかなりよく、
猟期殺人は×、バリの音楽とからめてあるのは大×。

原作があるらしいが、
原作でも猟期殺人でバリなのだろうか?
そうでなかったとしたら、
原作を読んだほうがいいだろう。

なお、この今関あきよしという監督は、
アイドル映画専門らしく、
モーニング娘。とかの映画も撮っている。
そして、
児童買春禁止法違反で何度もくり返し捕まり、
ついに懲役の実刑を受けている。

そうなってくると、
少女を襲う犯人の心理などは、
通俗的に感じたのだが、
意外と真に迫っているのか?