嘉悦報告書の最大のポイントは都構想(特別区設置)により10年間で1兆1040億円〜1兆1409億円の財政効率化効果があるという点。市会や法定協議会では、自民党市議らが、決算値と予算値が混在している点や、大阪市の歳出額に府に移管される事業が含まれている点を批判していた。それも一つの批判。

 

でも、今回は嘉悦学園の示す条件をすべて受け入れて、本当に計算があっているかどうかを確認してみよう。

少しむずかしいかもしれないけど、嘉悦報告書の原文を読んでみよう。何度も見ているうちにわかってくるよ。

嘉悦報告書は、人口一人当たりの歳出額が、人口と面積の関数で決定されるとして、以下のような関数を仮定するんだ。

log(y)=β01log(pop)+β2(log(pop))2+β3log(area)+β4dummy+u (6-1-1)式

ここで、yは人口一人当たりの歳出額(千円)、popは人口(人)、areaは面積(km2)だよ。uは誤差項。logは自然対数。

その仮定、本当に正しいの?と言うあなた。あなたは正しい。でも、それは今は置いておいて。

これを全国の市町村の実際のデータを用いて、係数β0、β1、β2、β3、β4の値を最小二乗法を使って求めて、近似式の関数を決めるんだ。

東日本大震災の被災地自治体は歳出がかさむだろうということで、被災地自治体を含んだモデルをモデル1、被災地自治体を含まないモデルをモデル2としているよ。被災地自治体を含むモデル1ではダミー変数を使うんだ。すなわち上の式で、被災地自治体では、dummy=1として、被災地ではない自治体では、dummy=0とするんだ。

こうして求められた係数の値が、以下の表6-1-2だよ。

次に、求めた係数の値と、大阪市で予定されている4つの特別区の想定人口、面積を代入して、各特別区の人口一人当たり歳出額の理論値を求めます。理論値だから、誤差項を含まない以下の式を使います。

log(y)=β01log(pop)+β2(log(pop))2+β3log(area)+β4dummy (6-1-4)式

表 6-1-4が嘉悦報告書の計算結果だよ。

われわれも、Excelを使って、実際に計算してみよう。

具体的には、モデル1では特別区第1〜4区ごとに、表6-1-2で示された係数β0、β1、β2、β3、β4の値と、表6-1-4で示された人口と面積を代入して、大阪は被災地でないから、dummy=0とするよ。

実際のExcel計算ファイルは以下を見てね。

https://drive.google.com/file/d/1ILuao2L5SbO3R00R_uGp6IYdtxJTsKzm/view

計算してみて、ビックリ。各特別区の人口一人当たり歳出額、嘉悦報告書の額と全然違う。

そして、10年間の歳出削減額も計算してみました。比較する大阪市実績値は嘉悦が表6-1-4に示した値を使ったよ。

その結果は、特別区設置により、10年間でモデル1で1兆2677億円、モデル2で1兆7919億円の歳出増加でしたよ。ヒェー。

 

最適基礎自治体規模人口50万人もデタラメ、本当は30万人でした。

人口一人当たり歳出が最小になる人口が50万人とか、嘉悦は言ってるけど。

最適基礎自治体規模となる人口pop*:pop*=exp(-β1/2β2) (6-1-3)式

これに、表6-1-2のβ1とβ2の値を代入して、計算してみよう。

Excelで計算すると、最適基礎自治体規模人口は、モデル1では31万7003人、モデル2では29万1657人。

嘉悦報告書にはモデル1で49万3356人、モデル2で49万2521人て書いてるけど、全然違うやん。

 

なぜ、こんなことが起こるのか?

表6-1-2の係数を見ると、嘉悦は小数点3桁以下を全て省略(四捨五入?)しており、有効数字という考え方がない。有効数字は普通は3桁くらいであるが、嘉悦の表記では有効数字1桁になる。そのため、誤差が指数により拡大されて結果に膨大な誤差を生んだ可能性がある。嘉悦の有効数字の扱いの問題(無知か故意か)、変数を対数で取ったことやモデル式自体が不適切な可能性。

例えばモデル1でβ2=0.05797として、計算すると財政効率化額や最適基礎自治体規模人口は嘉悦報告書に近い値になる。

逆にβ2=0.064とすれば、9兆5931円歳出増加になる。

例えばモデル2でβ2=0.0576として、計算すると財政効率化額や最適基礎自治体規模人口は嘉悦報告書に近い値になる。

逆にβ2=0.064とすれば、10兆6709億円歳出増加になる。

この方程式は係数の1つβ2の有効数字桁数の取り方で結果を数兆円単位で変えることができるのである。

 

結論。都構想の歳出削減効果1.1兆円は係数の誤差(嘉悦学園自身が四捨五入で誤差と取った)が指数により拡大されて生み出された「まぼろし」でした。