前回の章

孤独~引きこもった話

 

その日、誰にも気づかれないよう、まだ日が昇っていない2月の早朝にひっそりと家を出た。
星空が輝く、2月の空だった。
 

人生初の無断外泊に心はソワソワ落ち着かなかったが、自由を感じていた。
一連の、大阪へ行くことを親には黙っていたのだ。

 

夜に親から連絡が入ったが、全て無視。
もう成人してるのだから、一人勝手にさせてくれ。

 

正直、母親のこういう所が私は嫌いだ。
(実は父親も社会人になった弟に対して、日付をまたいでも帰ってこないことにイライラしていた。私の両親は共に心配性、過保護だったらしいことがその時判明した)
 

泊まったのは心斎橋にある「ハートンホテル」。

お気に入りのビジネスホテルである。
 

そこで一泊した後、電車で待ち合わせのカフェへと向かった。
 

初めての場所で、初めての人に会う。
これほど緊張することはなかったが、それよりも足が持つかどうかが心配だった。

 

ケーキ
 

当日は真冬だったけど、午前の太陽の下は暖かかった。
セッションというものは、一言で言えば対話。
 

一対一の対話を通じて、その人にとって今必要なことを見つけるためのものであったが、なにぶん、人見知りをする性格。
 

初めて会った人に心を開くことができないのが私である。
 

おまけにしばらくの間、他人とまともに会話をしなかったものだから、その傾向は強かった。
 

正直、私は自分の抱えていることだとか、ここに来た理由だとかを何も話せなかった。
話したいのに全てがいっぱいいっぱいで、言葉にして出していくのがなぜかできない。
 

内側にあるものを話したくて大阪まで来たのに、いざ話してみようとすると、恥だとか、いろんな抵抗があって言葉にできない。
声がうまく出ない。
 

言葉にする前に、涙が滲む。

言葉よりも感情が先にあふれてくる。

それを押しとどめようと、必死で押し殺す私。
 

結局私は初対面のYさんに、今引きこもり状態で無職であることも話せないままだった。
 

その日は、持参されていたセラピーカードを1枚引くことになった。
そこで出てきたのは「個人の神話」というカード。
 

大きな見開かれた本の前に、男女が向き合って手を取り合っている。
 

見開かれた本には、片方には風景の絵が、もう片方のページには男女の影のようなものが映っている。

 

これが私の画力の限界だ
 

そのカードを見た印象を聞かれ、私は、

 

「男女が向きあって仲良くしているけれど、一方(男性)は何かを隠している。
後ろめたい秘密を持っているのを隠しているように見える」

 

そんなことを答えた。
 

ちなみに、このカードにそんな意味も意図もない。
 

ただ当時の私には、その男性側にある影が男性にとっての隠し事、そんな風に見えていたのだ。
それはおそらく、私の状態でもあったように思う。
 

いろんな言えないことがあってそれらを必死で隠している、私が私自身に感じていることをそのイラストを口実に口から出ただけ。

 

こういうことがあるから、この世というのは、本当にその人の見たものが全てなのだ。

カードのイラストを見て、私が勝手に解釈したように。
 
しかし、結局は肝心なことは何も話せぬまま終わった。
せっかく大阪まで行ったのに悔いだけが残った。
 

ひとつ収穫があったとすれば、無事に歩ききれたという自信。
その後、なんだかんだ洋服を見て回ることができたくらいだから。
 

おかげで帰宅して以降、踵をつけてちょっとずつ走れるようになった。
もちろんインソールありきではあるが、そこだけは大きな前進であった。

 

大阪通い②