1階のSさんは最近すごく明るくなった。
それには訳がある。
Sさんは本当は何でもできるのに、なんにもしてもらっていなかったの。
『できることを探そう』ってカンファレンスでも話し合い、新しいケアプランと共に、Sさんには毎日忙しい日々がやってきた。
今までは洗濯物たたみなんかをしていたが、新しく彼女の腕を発揮してもらったのが台所のこと。
お米とぎから野菜きり、ゴマすり、味付け、盛り付け・・・・・
頼んだものは何でもできる。
本当に発見だった。
できることがあるのに、させてなかった。
ご飯を食べるのは生きていれば必要なこと。
誰でも作らなければ食べられない。
だから作って食べる。
それをしているだけなんだよね。
そんな日々を繰り返していたら、彼女!思い出したんだ。
『わっち、昔、温泉ホテルで働いてたんだ・・・・・思い出した・・・・・』
って自分で言ったんだって!!
担当スタッフは涙が出るほどうれしかったって、興奮してた。
『何百人からのお客さんのまかないしてたんだ』
次から次と思い出す。
今日も楽しく台所で一緒にご飯作って、ちょっといっぷくしてお茶でも飲もうと二人で座ってお茶を飲んだ。
そしたらばあちゃん
『わっち、温泉ホテルで働いてたんだ。100人からお客さんくるんだよ。それ全部盛り付けするんだ。』
「へー、お膳でかい?」
『そんだ、そのお膳何重にも重ねて置いて・・・』
「それを運ぶの?」
『そんだよ』
「作ったりはしないの?」
『うん、作ったりしない。ちゃんと作る人いるんだ。男の人でね。』
「その作ったやつを盛り付けるんだね。お刺身もかい?」
『ん・・・・・刺身か?刺身はその人達が付けてたかな?忘れたな。たしかそうだった』
「へー、何時ごろから働くの?」
『朝はまだ暗いうちから行くんだ。冬なんか寒くって・・・』
「そうなんだ。場所は洞爺かい?」
『うん、そうだ、そこの一番はじっこさ。』
「ふーん。(そこ?はじっこ?)」
しばらくしてまた何かを思い出したのか話し始めた。
『とおさんはボイラー炊きしてたんだ。ホテル中のお湯を沸かすボイラー炊き』
「そのホテルで?一緒に働いてたの?」
『そうだ。私たちが一番年上だったんだ。あと一人田村さんって人と私たちくらいだ、年いってんのは。あとはみな若い人ばかりだった』
そして何を思い出したのか
『ここへ来たことあったよ、そのホテルの人。温泉ホテルで働いてた人いないかって探しに来たんだ。どんなことして働いてたか聞きたかったんだべ。ここへ来たんだよ』
「そーなんだー」
どんどん思い出していく。
今度は何を思い出すだろう。