朝から、体がかったるく節々が痛かったので、昼食は止めにして、とって置きの場所で昼寝しようとロビーに降りて来た。今日は今売り出し中の若手俳優のサイン会があるので、それに向かう人群れを避けながら、ユラユラとこの場所に来た。そこはロビーより、数段階段状に下がって来ていて、座れば視線からは外れる、客待ちスペースの場所で、壁には、陶板で出来たレリーフがあり、反対側の窓は床から天井までが、硝子張で、背もたれの無い広めのベンチが数個置いてある。さらに階段が狭くなり地下階へとつながっているらしく、衝立をおいて、「これより先は関係者以外の立ち入りは御遠慮ください」の張り紙がしてあった。本当はこの奥に少しスペースがあり、落ち着いてさぼれるのだが、一組の先客があり、ゆたゆたとする気配があり、あきらめて、このベンチを窓際まで動かし、右手肘枕で丸くなって、硝子に張り付いている、ツツジの枝と小さな花、それを揺らすスズメそして忙しくはい回る黒い虫、それを狙う動かないカナヘビ、それらを見ながら、
ベンチに溶け込もうとした時、耳の後ろをトントンと歩くような
打診があり、肩甲骨とお尻に柔らかい触診があり、首をひねると亜沙子だった。顔をガラス側に戻して、「○○を観に行かなかったの、少し背は低いけどいい男だよ」と言ったが無言。
「絶壁だぁー」と亜沙子は人差し指と中指を立てて、歩くように私の頭を探っている。
「明日、教子の誕生会があるけど来る?」
そうか、確か自分と同じ星座だと言っていたけど、明日とは。
「どこで?」
「新宿」 少し考えて、皆知っている奴ばかりだから亜沙子との仲を探られるのが嫌だなと思い
「俺はいいよ。それより終わったら、どこかで・・・」と言いかけてが「やっぱり、止めとこう、楽しんできなよ」
亜沙子の歩行はおでこから目、鼻筋へと顔を一回りして、その後人差し指を口の中に入れ、歯茎を掃除して引っ張りだした。暖かい唾液の蛋白質が空気に触れる臭いがして、亜沙子は
「くさいー」
私は向きを変え、立て肘枕で寝そべっている亜沙子の顔を抱き寄せてた。
私はこの手の顔が大好きで、なんせ自分は、出目で小鼻が低く団子鼻、唇は上下とも厚くおまけに出っ歯ときているが、亜沙子は中東系のハーフかと見間違えるほど、奥目で小さいけど鼻筋はすーっと通っており、唇はいつも憂いを放っている。それでいて、陰がありそうな表情を時々漂わせている。生まれは山奥の農家の出らしいが、なんで自分についてくるのか不思議なくらいだった。
欠点といえば広すぎるおでこくらいで、私は髪を搔き分けそこへ口をつけた。そしてそのまま、鼻筋へ降りて来た時、亜沙子のほうから口をとがらして来て
「風邪が移るよ」
「いいの」
ヌタヌタとしたものが入り込み歯茎の裏を探り始めたので、私も反撃して、抑え込んだが、亜沙子の方が強く、絡めとられてしまった。自分の体から、悪寒と節々の痛みが消えていくのを感じた。
