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華月洞からのたより

ひとこと多い華月(かげつ)のこだわり

『光る君へ』 第27話 宿縁の命

 

毎回内容が濃すぎて息つけませんて。主役二人の石山寺での再会から、相変わらずぼーっとしていて周囲を静かなパニックに陥れる彰子ちゃん、赤染衛門の勘違い先走りお作法指南、屏風和歌提出の面々に動揺する実資(知的ゆるキャラ枠)、母・女院詮子に猛反発する一条帝、オウムにネコの小麻呂まで、全カットあますところなく見どころでした。

 

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石山寺で偶然再会した道長とまひろちゃん。

 

月明かりのもと、節度ある大人らしく互いの近況を尋ね、いたわりの言葉をかけあっているうちに、二人の脳裏に過ぎ去った思いが次々とよみがえる。道長は思いに引きずられまいとするかのように、まひろの越前での暮らしに話を振る。「宋語を習った」というまひろが「越前には見事な紙があります。私もいつかその紙に歌や物語を書いてみとうございます。」と宋語で話すのを聞く道長は、幼いまひろの漢籍解説を感心して聞き入る少年三郎そのままだった。(まひろが都に)「戻ってきてよかった」と道長はつぶやく。まひろは心の震えを隠そうと「供の者がおりますのでそろそろ戻りませんと」と答える事しかできない。

道長も自分の言葉を慌てて回収するかのように「引き留めてすまなかった」と立ち上がり、宿坊へと帰って行く。

まひろはその場で立ち尽くしたまま、背後に遠ざかり、やがて石段を登っていく道長の静かな沓(くつ)音を聞いていた。

突然、道長は顔をゆがめ、今登ってきた石段を駆けおりてくる。その沓音に振り返ったまひろは道長に向かって駆けだし、その胸に身を投げた。

二人はひと夜を共にしてしまう。

 

 

 

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(もう、あの思いに苦しめられることはない。過ぎたことだ。)と、二人とも自爆地雷を踏むまいと、普通に話そうとすればするほど想いが口を突き、核心をかすってしまうヒリヒリした緊張感。

抑さえきった、と思ったとたん決壊する心。

 

大石静さんって凄いわ、凄い台詞書くわー(どういう上から目線)としか言えない。

 

吉高まひろちゃんの表情だけで見せる演技が冴え渡っていた。

「戻ってきてよかった」という道長の言葉に震える心、

道長の沓音が遠ざかっていくの背後に聞きながら「これで良かったのだ」と自分に言いきかせる悲しみと寂しさ。

 

登り始めた石段を突然駆け下りてくる柄本道長、浅沓(あさぐつ:高級でも構造はつっかけ下駄、つま先が覆われているからつっかけより歩きにくそう)で、危ないって!

まひろへと駆け戻るときの、涙を浮かべ引きゆがんだ顔も凄かった。

俳優さんて、なんでああいう顔できるんだろ。

 

石山寺に詣でて、この展開。

御仏のお導きか、御仏だけはこの宿世(すくせ)をご存じだと二人は思っただろう。

恋してるから。

道長は自分と生きることを考えぬか、と尋ねるが、まひろはこれが最後とわかっている。

 

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まひろは何事もなかったかのように、よい妻たろうと宣孝に接して夫婦仲はおさまったのだが、どうにも体調が悪い。いとは「それはご懐妊でございます」と告げ、宣孝の足が遠のいて石山寺に詣でた2月頃に身籠もったと察っする。「黙ったまま、行けるところまで行くのでございますよ」と、言葉もなく膠着するまひろをさとした。

・・・にも関わらず、まひろは訪ねてきた宣孝に「子が出来ました」「生まれるのは師走の頃」と告げてしまう。

「めでたい。よい子を産めよ。」と上機嫌の夫だが何も気付かぬはずはない。深夜、思い詰めたまひろは別れを切り出す。

「誰の子であろうとそなたの産む子はワシの子である。そなたは自分を不実な女と言った。ワシもそれで良い、と言った。そういうことだ。二度と別れるなどと言うな。」

 

頭は良いが頑なで変わり者で一途で危なっかしいまひろちゃんが生来のまま生きていけるよう、まひろの応援サポーターにして献身的なスポンサーになる・・・この結婚は安定した地位も財もある宣孝の人生最後のアドベンチャーだったろう。

・・・となれば左大臣は自分を軽々しく扱えまいという美味しい計算もあり、不実であってもずる賢く立ち回ることは出来ないまひろを愛おしくもあり・・・リアリストでロマンチストな佐々木酒造。

 

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今回、ふたつの出産シーンがあった。

皇子を産む中宮定子と女子を産むまひろちゃん。

 

『紫式部日記』には後年の中宮彰子の出産の様子が詳しく書かれていて、「宮中から実家に下がり、別室で連日大勢の僧侶たちの読経、加持祈祷が行われるなかで出産を迎える。」という、うるさそうな環境だが、これが当時の超ハイクラス、至れり尽くせりの出産なのだろう。

 

それに比べて、中宮定子の出産はあり得ないほど質素で帝の初めての皇子が誕生したというのに鳴弦の儀(めいげんのぎ:魔除けのため弓をつがえず弦をはじき音を鳴らす。今でも皇族方の誕生時に行われている。)は、二人の兄弟(伊周、隆家)のみ。

祝いに参じる者もいないし、まだ起き上がれない定子の居室の御簾を隔てて「この皇子を早く帝に」「それは今の帝が退位あそばされることで、さすれば中宮のお力も弱まり・・・」と、兄弟は定子と皇子を盾にどう権勢を回復していくか熱く語るばかり。

説明セリフもなくわずか数分のシーンで、中宮定子の置かれた悲しい境遇が伝わった。

 

 

(清少納言の献身に泣ける。史実で道長のいろいろな妨害工作や嫌がらせがあったのは知っているけど、あえて言えば一条帝も二人のお兄ちゃんも、母方の実家・高階家もふがいなさすぎる。)

 

 

一方、年の瀬に質素な為時の屋敷で、土間ではまひろの安産を祈って乙丸と福丸が一心にお経を唱えるなか、まひろも女子を出産する。

赤ちゃんを見つめるまひろの目には、喜びと悲しみがあった。

 

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多くの方がある時点から予想したとおり、まひろちゃんは藤壺の宮ポジションへ、佐々木酒造は桐壺帝ポジションへ、ついでにいとさんは王命婦へ大躍進。

 

ここまで振り切る覚悟があったからこそ、大石さんはじめ制作スタッフは、主人公を「まひろ」という架空の名にしたのだろう。

 

『源氏物語』でも藤壺の懐妊を聞いた光くんの動揺、出産から懐妊時期を逆算して更に動揺する光くんの描写の生々しさは、物語全編の中でも妙にリアルで異質だと感じていた。

(作者が女性だからね)と自分を納得させていたのだが、その身に起こったことというのは妙に腑に落ちる・・・のは私だけか。

(相手が誰かまではわかりかねるが)

 

 

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今回のMVPは、藤原宣孝殿(佐々木蔵之介さん)

 

 

ちょっとデリカシーに欠ける睡眠時無呼吸症候群の叔父さんで

ありながら、宣孝のまひろへの大きな愛もまた本物。

まひろちゃんが可愛くてたまらないのだろう。

予想通りまひろちゃんに振り回されても、

毎回お土産持って訪ねてくる。

上にも書いたけどリアリストでロマンチスト。