相方が「お風呂一緒に入る?」と私に聞いた。
もちろんほとんど冗談だ。
私の返事を待たずに「そんなに態度を豹変させなくても」と1人で笑っていた。
問題はその後だ。
「一緒にお風呂入ったことあったっけ?」
「それっていつのこと聞いてんの?」
「有史」
私の中でまた何かが崩れる。
付き合って結婚するまで7年半、結婚して妊娠がわかるまで3年。
10年半の中でないわけがない。あるに決まってる。
なのに真顔で聞くのだ、“有史(付き合って)以来お風呂に一緒に入ったことあったっけ?”と。
そりゃ、君はこの2年彼女といろいろお楽しみだっただろうさ。
私との記憶なんか彼女で上書きしちゃっただろうさ。
君はただでさえ、人並みはずれて記憶力がないんだから。
「彼女といろいろやって私は上書きされちゃったから」
「でも意外と覚えてたね。
引き出しの隅を探したらあったみたいな。けつまずいたっていうか」
“意外と”だよ、“意外と”。
相方にとってはもっと忘れてるつもりだったんだよ。
実際かなり忘れてるんだけど、それ以上に忘れてるつもりだったんだよ。
それほどに私は忘れられ去られていた。
私は引き出しの隅のホコリか? 路上の石ころか?
不倫期間2年は長い。
私にとっても。
そして彼女にとっても。
相方は「違うよ、君の事は忘れてないよ。お風呂の事は本当に思い出せなかっただけ」と言った。
思い出せないってのは、忘れてたって言うんだよ、バカ。