役所に『妊娠届出書』というものを提出すると母子手帳がもらえる。

 

そしていろんな書類とともに『マタニティマーク』が中に入っていた。

 

私はつわりがなかったし、もともと電車通勤でもないし、

 

コロナの影響で出かけることも減っていたし、このマークに頼ることもなかった。

 

 

 

たとえ電車に乗ったとしても、

 

人が座っている前で、マタニティマークをバックにつけた私がつり革を持っていたら、

 

いかにも『席を譲ってく・だ・さ・い!』と権力をふりかざしている

 

(水戸黄門のあのセリフを言い放っている)かのようで、

 

つけるのには抵抗があった。

 

 

 

譲ってもらうことによって救われている妊婦さんはたくさんいると思うけれど、

 

元気な私はこのマークをぶらさげることに引け目を感じてた。

 

 

 

 

でも、お腹もちょっと目立つようになっていたある日、ふと思った。

 

 

 

 

『私がもし意思表示ができないほどの緊急事態に落ち入ったら……』

 

 

 

 

もちろん起きてはほしくないのだけれど、

 

妊娠していることがいち早くわかることで守れることがあるのだとしたら

 

つけるべきじゃないかと思って、いつも使うバックに初めてマークをつけた。

 

 

 

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それから電車に一回乗った。

 

座席は全て埋まっていた。

 

座席の前にはやっぱり立てない。

 

私は一番居心地のいいドア付近のつり革を手に取り立った。

 

帰宅後、やっぱりマークを外そうかなとも思った。

 

 

 

 

それから数日後。

 

軟骨のピアスホールが痛み出したので、2,3日ピアスを外した。

 

痛みも赤みも引いたので、再び取り付けようとすると、先は入るのに、出口がない。

 

裏側がすでにふさがっているように見えた。

 

なんてこった!

 

何度やっても後ろに通らない。

 

また耳が赤くなってきた。

 

これは病院で診てもらったほうがいいと思い受診すると、

 

炎症を起こしているとのこと。

 

 

 

『抗生物質と塗り薬出すから、しばらくそれで様子を見てください』

 

 

 

と言われ、はい、と返事をした。

 

 

 

『あれっ?ちょっと待って。もしかして妊娠中?』

 

 

 

先生は私のバックについていたマタニティマークを見て言った。

 

 

 

はい、と答えた私に間髪入れずに先生は言う。

 

 

 

『妊婦さんに抗生物質はダメだ!』

 

 

 

あっ、そうだ。私妊婦だ。薬はやたらと飲めないんだ……。

 

なんで即座に結び付けられなかったんだろう。

 

恥ずかしい気持ちと、反省する気持ちが起こったと同時に、

 

 

 

『マークつけててよかった……』

 

 

 

と救われた気持ちになった。

 

 

 

マタニティマークは思わぬところでマヌケな私の救世主となった。

 

『優先してくださいじゃなくて、気にかけてください』

 

という意図でつけよう。

 

それもおこがましいかな。

 

『気にかけてもらえたらうれしいです。おっちょこちょいな私なんで』

 

こう思うことでマークをつけることに違和感はなくなった。

 

 

 

してもらったことは忘れず、ありがとうの気持ちをもって、次へおくる。

 

してもらうことばかり考えず、自分ができることを考え、

 

giveアンドgiveの気持ちを大切にしよう。

 

 

 

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Photo Writer かどまどか  / Kado Madoka

 

 

上から読んでも下から読んでも、かどまどか。
撮り手で書き手。
主に旅、ライフストーリー、文化、家族をテーマに執筆。
教科書の教材やインタビュー記事も執筆している。
執筆テーマに沿った素材の撮影はもちろんのこと、家族写真も撮影。
写真ストックの中から写真提供も行っている。
中学校で命、生き方、国際理解をテーマにした出前授業も行う。

 

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