まーのブログ

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杉村三郎シリーズ2作目。吉川英治文学賞受賞作。今多コンツェルン会長の娘婿である杉村三郎が所属する広報室は、仕事ができず、仕事場に馴染もうともしないトラブルメーカーのアルバイト・原田いずみを解雇した。しかし逆恨みした彼女は三郎たちに度を越した嫌がらせを開始する。折しも連続無差別毒殺事件が世間を震撼させていた…。

 

『名もなき毒』のタイトルの意味は、殺人事件に使われた物質の毒物(青酸カリ)の他に、人間の心に潜む悪意、嫉妬、恨みといった負の感情を表現しています。

 

日常の中の身近な狂気的存在の原田いずみと、毒物を使用して既に一線を越えてしまっている犯罪者。最初は全く無関係だった事件が並行して描かれる二重構造のストーリーが展開され、クライマックスで「二つの毒」が交錯する構成がお見事です。原田いずみというモンスターを通して、悪意という精神的な毒でも、他人の幸せな日常を破壊できてしまうことが示されています。物質的な毒とはまた違った恐怖を覚えました。

 

杉村三郎シリーズ1作目。今多コンツェルン広報室所属で、会長・今多嘉親の娘婿である杉村三郎は、会長の専属運転手だった梶田の二人の娘たちから、事故死した父についての本を書きたいとの相談を受ける。すると梶田の人生を辿る三郎の前に、意外な情景が広がり始める…。

 

梶田を自転車でひき逃げした人物は「誰か」。梶田がその現場周辺で会っていた人物は「誰か」。4歳の頃の梶田の長女・聡美を誘拐監禁した人物は「誰か」。主役の探偵は素人で、そもそも事件そのものが地味。にも拘わらず、謎が増幅する展開に惹きこまれました。

 

しかし本作は梶田の死の真相を突き止めるミステリではありません。それは物語の切っ掛けに過ぎず、三郎の地道な調査により、梶田の謎めいた過去、遺族である梶田姉妹の確執が明らかとなります。そして心に傷を持つ人物たちの心理を、最終盤で三郎が代弁します。人は一人では生きていけない。どうしようもないほどに、自分以外の「誰か」が必要なのだ。

 

人間の心の歪と脆弱さ、そして秘められた悪意をテーマにした読み応えのある心理ミステリでした。