このお話の数ヶ月後のお話
名残惜しさがいっぱいの状況で家に帰る。
行ける時は出来るだけ行って
そばについていた。
それでも、帰る時間が迫ってきて、時計と睨めっこしながら、ギリギリまでそこにいた。
何回か行ってる間に、驚くくらい回復していた時もあって嬉しかった。薬が効いたみたい。
それでも、とうとうその時がきてしまった。
姉から、もう危ないかもと連絡を受けて
実家に行った。
実家に行くと、愛犬がクッションにひいたタオルの上で横になっていた。
片目は真っ赤でひっくり返って、最初に見た時と同じように、見える方の片目は私を見ている。尻尾の先だけを必死に動かしていた。
私が来たことがわかっているようだった。
頭を撫でて、名前を呼んで声をかけた。
はっはっはっとしっぽの先を振りながら荒い息をしていた。
喜んでいるように見えたが違うかもしれない。
抱っこしたかったけど、首も体も変に曲がってる状態で硬直してたから、抱っこすると良くないと思った。
ずっと、そばで見守った。話しかけたり撫でたりしてる内に、また泣けてきた。
辛いだろうに、ずっとしっぽの先が動きっぱなしだった。
もう、頑張らなくてもいいよと思ったからそう言った。
近い内にお別れがくるかもしれない。そう思うと悲しくて悲しくて悲しくて堪らなかった。
ありがとうな。ほんまにありがとう。
ちゃんとお別れもせずに、この家から出て行ってしまったのに
そんな体で辛いだろうに、嫌がらずに撫でさせてくれて、尻尾振ってくれるんだ。
ありったけの思いを込めて感謝の気持ちを、楽しかった時間をありがとうと伝え続けた。
どんな時も、この子だけは私の見方だった。
姉と同居初めてから、居場所を作るように必死になっていた生活だった。
でも、この子だけは私を喜んで受け入れてくれた。
苦しかった生活。辛かった生活。
その中で、シャンプーしてドライヤーで乾かしてあげたり、伸びた毛をカットしたりしたこと。
脱走癖があって、近所を必死に探し歩いている内に、泥だらけの顔をしたこの子を見つけたこと。
別の脱走時に、道路の少し離れたところにいるのを見つけて名前を何度も呼んだら、小さな体でダッシュで私のところに走ってきたこと。
色んな出来事を思い出した。
私の部屋のベッドに乗り、丸まって寝ていたことも、窓辺に前足をかけて外を眺めていたこともあった。
名付けは私。
まだ片手に乗るくらいに小さな頃に姉宅にやってきて、名前について相談を受けた。
じーっと顔を眺めて、見つめ合いながら
ぴったりな名前を見つけた。
大好きだった。
義兄が帰ってきて挨拶した。
愛犬を覗き込んで、ただいま。
そして、私は帰る時間が迫ってきて
後ろ髪を引かれる思いで、
バイバイ。また来るからね。と声をかけて頭を撫でた。
立って側を離れる時、ずっと振っていた尻尾の先が止まった。
次に来た時にも、いっぱいありがとうを言おうと思いながら帰った。
その日の夜。
姉から電話がかかってきた。
愛犬が死んだ。
さっき、会ったばかりだったのに。
尻尾をあんなにパタパタ振ってたのに。
ショックで声が出なかった。