私には唯一家で家族と思える存在がいた。


姉夫婦が結婚してしばらくしてから子犬で買ってきた小型犬。


いつも、この子だけが私を喜んで家に迎え入れてくれた。


仕事から帰ると、お尻を目一杯振りながら突進してきて


抱っこをせがまれた。


抱っこして、おでこを尖った鼻の上にあった目のある窪みに収めて、ただいまと挨拶する。


不思議なことに、その窪みは私のおでこの形にフィットしていた。


抱っこするまでキャンキャン鳴いていた犬も、おでこを密着させると、静かになってじーっとしていた。


私の愛情を受け入れてくれてるような、優しい時間だった。


もう、この家で一緒に過ごすことは無くなるんだなと思ったら


泣けてきた。


通じるかわからないけど


ありがとうな。あんたがいてくれたから私はここにいられた気がする。


言葉をかけて、しばらく窪みにおでこを密着させた。


なごり惜しかった。


それでも、私はこの家を出て行く。


そっとおでこを離して、犬を下ろす。


最後にひとなでして、玄関を出た。