第3話「過去」
「母さんっ!母さんっ!」
「クルスト!はやくっ!ミーナも!」
「お母さん!これ以上は走れないよぅ・・・」
そう言って膝をつく少女。その少女に駆け寄る少年。
「ミーナ、俺がおんぶするよ!さぁ、早く!」
少年はそういって少女をおんぶする。少女はまだ4歳といったかんじで、少年は7歳にみえた。二人の母親も、二人に駆け寄る。
彼らの周りは燃えている民家ばかり。山々に囲まれたこの住みよい村は、盗賊たちの襲撃で壊滅しようとしていた。
「さぁっ、早くいきましょう!」
そう言って母親は二人を引き連れる。だが、それらをコクピット越しから見据えていた盗賊がいた。
「へっへっ、逃がすかよ!」
そう言って盗賊の乗るゾイドが現れる。
「きゃぁっ!」
母親の悲鳴が聞こえる。盗賊の乗るゾイドはマーダだ。このニクス大陸では帝国軍の主力としては程遠いが、大異変後、生き残っているゾイドを運用するしかなかったガイロス帝国はマーダですら貴重な戦力であったし、盗賊たちも当然そのおこぼれにあずかっていた。
要するに彼らは軍人くずれの盗賊たちなのであった。だが、盗賊に成り下がったとはいえ、訓練を受けているため、操縦技術はそこらへんの盗賊とは上だ。
「そこの女。動くな! おっと・・・美人じゃねーか。っとぉ、その後ろにいるのは・・・ けっ、子持ちかよ。まぁいい、そこの娘はそれなりに使えそうだな。そうだな、そこのガキはいらねーな。おい、ガキ、その娘を離してかーちゃんのところに渡しな。」
「えっ、、、くっ・・・。」
少年は言われるがまま少女を下ろした。
「だめよっ!クルストっ・・!」
母親の叫び声が聞こえる。だが、途端にマーダが母親を脅すようにずんっと近づく。
「あんまよけいなことはしないほうがいいぜぇ?さぁ、早くこっちにくるんだ。ガキは近づくなよ。」
「俺はどうなってもいい!でも、母さんやミーナには手を出すな!」
「おうおう、勇気あるガキんちょだな。ふっ、いいだろう。手はださねーよ。それにおめーにも用はねーしな。」
「・・・。」
「お兄ちゃん・・・。」
少女は心配そうに兄を見つめる。少年は
「大丈夫だよミーナ。母さんがついてるから大丈夫。さぁ、いくんだ。」
「うん・・・」
少女はそういって母親のもとにいく。母親は少女を抱きしめる。
「ミーナ!ミーナ・・・。」
母親は少女の名前を呼ぶ。だが、その刹那
ガッ、
「キャーッ!」
母親の悲鳴があがる。マーダはその手で母親と少女を手にとった。
「!、何もしないと言っただろう!」
少年は怒声をあげる。だが、盗賊はにやにや笑いながら言う。
「へっへっへっ、ガキはやっぱどんなに勇気があろうがガキだな。この二人は俺たちの下で働いてもらうさ。そうだな、この娘も使えそうだ。もう少し成長するのを待てば、俺たちの手伝いをしてもらうさ。」
「!、なんだとっ・・・」
「色々やってもらうさ。俺たちはただの盗賊じゃねーんでな。じゃあな、ハハハ!」
そう笑い声をあげて盗賊は去っていく。
少年は悔しがった。気がつけば、近くに倒れているイグアンがあった。
「・・よし!」
少年はイグアンのコクピットを開けると、すぐに機体を起動させた。
グィィィーン・・・
イグアンは起動し、瓦礫を払いながらマーダの前に現れた。
「!、なんだこいつ!やる気か!」
「母さんとミーナを離せ!さもないとコクピットを撃つ!」
少年はそう言ってビーム砲をマーダのコクピットに照準を合わせる。
「ハッ、ガキなんざに負けるような・・・俺じゃねえええ!」
盗賊はマーダを走らせてイグアンにキックをかます。イグアンはそれを受けて大きく吹っ飛んだ。
「うわあああ!」
「クルスト!きゃっ!」
母親の悲鳴が再び聞こえる。少女は母親にだきつきながら泣いている。
「けっけっけっ、てめぇの技量じゃやれねーよ。」
「・・・!甘い!」
「なにっ!、うわぁっ!」
イグアンのビームがマーダのコクピットすれすれに走る。マーダのコクピットは一部ショートし、盗賊はショートを受けて悲鳴をあげた。だが、すぐに盗賊は気を取り戻した。
「・・・ガキぃ、よくもやりやがったな。こうなったらもう遠慮はしねえ、まずは母親と娘に死んでもらう!」
「!、やめろぉっ!」
少年クルストが叫ぶ。
「はっはっはっ、死ねぇっ!」
マーダはその手に持った少年の母親と少女を地面にたたきつけた。そして、マーダは足で二人を踏み潰した。そして、マーダが足をあげると、二人の無惨な血まみれの姿が少年の目に映った。それは、まだ7歳の少年には衝撃的な瞬間だった。
「う、、、う、、、うわああああ!」
「ははは!泣きやがれガキぃ、俺たちに逆らうことになるからこうなるのさ!」
すると、マーダのコクピットからピーッピーッと音が流れた。
「おい、どうやら帝国軍の鎮圧部隊が接近してるらしい。どうも村人の誰かが近くの基地に救援を頼んだみたいだな。」
通信機から盗賊の同胞の声が流れる。
「なにぃっ、・・ちぃっ、ならすぐに撤退しよう、軍のやつらがくるまえにな!」
「残念、もう君は我々に囲まれてるさ。」
「!」
スピーカーから流れる声。
上から、黒い4足獣型の機体が現れた。
「!、ぐ、グレートサーベル!?」
グレートサーベルと呼ばれたサーベルタイガーの改造機は、ディオハルコンを燃料としているのか、機体の一部分が緑色になっている。
「君はもう囲まれている。投降したまえ」
グレートサーベルのパイロットがマーダの盗賊に告げる。
「ちっ、、仕方ない、、、降伏するぜ。・・・!」
盗賊がきづくと、イグアンが立ちあがってマーダにキックを食らわせる。
「!、うわあああ!」
マーダに乗る盗賊が悲鳴をあげる。クルストのイグアンは倒れたマーダのコクピットを押しつぶそうとする。
「!、まて!イグアンのパイロット!」
サーベルのパイロットがそう叫ぶ。だが、時は遅かった。
「母さんとミーナの仇!しねええええっ!」
「うわあああああ!」
盗賊の断末魔。そして、マーダはイグアンにコクピットを押しつぶされて、盗賊は絶命した。
「はぁはぁ・・・、母さん、ミーナ・・。」
少年は涙をこぼしながら、コクピットをあけて二人の遺体の元へ向かう。見ればみるほどむごい死に方。もはや人とも思えないほど、二人の体はボロボロだった。
「・・・、くっ・・・くっ・・・。」
クルストは遺体に目を向けられず、ただ泣きじゃくっていた。
「子供が操縦していたのか!?おい、この盗賊たちはわが軍の元同胞だったのだな!?」
サーベルのパイロットが通信機越しに部下に聞く。
「ええ、彼らは第3機甲師団の者です。徒党を組んで基地を脱走し、それ以来、各地で盗賊活動をしていたようです。」
「そうか・・・。第3機甲師団の者といえば、それなりの実力者たち・・・。盗賊くずれとはいえ・・・。ん?」
サーベルが少年のそばにあるものをズームする。それは、少年の母親と、その妹とみれる遺体だった。
「なるほど・・・。」
サーベルのパイロットは、コクピットをあけると、少年の下に向かった。
「少年、私と共にくるか?」
「・・・。」
クルストは黙り続けていた。
「君の実力を我が軍でぜひ発揮させたい。私と一緒にきてくれないか?」
今度は頼むようにサーベルのパイロットは言った。
「・・・・あなたは・・・?」
クルストは下を向きながら言った。
「私は、ユーリ・アストレイ。ユーリ・アストレイ中尉だ。」
「残念ながら俺はここを離れるわけにはいきません・・・。母さんと、、、ミーナを・・・。」
「君の家族のご遺体は我が隊が丁重に葬らせてもらうよ。」
「!、俺の手で葬りますよ!そしてあなたたちの元へいくつもりも・・」
「なら君はこの壊滅した村でこのまま住むのか?言っておくが、君以外生き残りは誰もいないと報告があった。その状況で君はどこへいくというのだ。」
「くっ・・・!そんな・・・・。」
クルストは再び顔を下に向けた。絶望的な言葉だった。村が全滅した。彼の友人たちは皆死んだ。
「ユーノ、、、ミリィ、、、、アッシュ、、、みんな・・・みんな死んだのか・・・。」
アストレイは胸の通信機を取って連絡をとった。
「こちら、アストレイ中尉だ。村の生き残りの少年を発見した。これより保護する。それと、その少年の家族の遺体が今そばにある。悪いが、埋葬するのに手伝ってくれないか?」
そう言って通信機を切ってクルストの場に居た。
「・・・。」
目をあけると天井が見える。
自室で仮眠を取っていたクルストは、時計を見た。出発準備まであと10分。
「そろそろいくか。」
そうおもって、クルストは支度をすると、格納庫へ向かった。
格納庫には、整備を終えてホエールキングへ積み込まれるレブラプターやジェノザウラーがいた。
「遅かったですね。私は先に行ってますよ!」
コクピット越しからスピーカーで格納庫を歩くクルストに向けて声を放つ男がいた。アイン・ターラント中尉だ。
「ずいぶん疲れたような顔をしているな。何かあったのか?」
ふと、声がした。気付けば後ろにアストレイがいた。
「いえ、、、過去のことが夢にでてきただけです。」
「そうか・・・。あれからもう9年か。」
「自分はもう後戻りはしません。貴方につれてこられなければ、あの村で一生孤独の生活を続けていたでしょう。」
「・・・、私は君には申し訳ないことをした、とあの後感じたが、そうおもってくれるなら幸いだよ。」
そう言ってアストレイは自機に向かう。アストレイは自分でも気付いているが、クルストの過去に同情を向けるような男ではない。だが、あのとき、それなりの誠意は示した。それはクルストも気付いているし、そういう点でもクルストはアストレイに感謝していた。
「いくよ、母さん、ミーナ。」
クルストはそう言って、ジェノザウラーに乗り込んだ。