結核

 

 結核はかつて、若年者の病気として猛威をふるいました。

 結核自体は古代のミイラにも病変が確認されていますが、爆発的に広がったのは産業革命以後の都市化と不衛生な環境での集団生活によるものとされています。

 現代の先進国では医療の発達や栄養状態の改善により結核は減少傾向です。しかし日本では人口の高齢化に伴い、若い頃感染し体内で眠っていた結核菌が再燃する二次結核が増加傾向であり、このため日本は結核の中蔓延国となっています1)

 

結核菌の特徴

 結核菌は長さ25μm、幅0.30.5μmの桿菌です。鞭毛、繊毛はなく、運動性はありません。莢膜や芽胞も作りません。

 結核菌の最大の特徴は、細胞壁に多量の脂質が含まれることです。この脂質成分のため結核菌は染色されにくく、通常のグラム染色では染まりません。しかし一度染色されると、色素はアルコールや酸で脱色されにくく、このため「抗酸菌」と呼ばれたりします。

 結核菌の分裂速度は1320時間で一回となっています。これは2030分で一回分裂する大腸菌やブドウ球菌に比べると非常に遅いと言えます。大腸菌やブドウ球菌感染症が急性で発症して急速に悪化するのに比べ、結核の発症も悪化の速度も遅いのは、この分裂速度の遅さによるものと言われています。

 結核菌は通常、肺で病変を形成します。これは結核菌が吸気で吸い込まれて空気感染するからですが、同時に酸素が豊富な環境を好む好気性菌だからです。肺の中でも肺尖部ほど酸素分圧が高いと言われており、約130mmHgです。しかし下葉はせいぜい90mmHgといったところです。ヒトの結核は上葉に多いですが、これは肺の上葉の方が酸素分圧が高く、結核菌が発育しやすいからです。

 

結核菌の感染

 結核菌の感染様式は空気感染であり、飛沫感染や接触感染が主体のインフルエンザウイルスやコロナウイルスとは大きく違います。

 結核患者が咳をすると飛沫核が空気中をただよい、感染対象が呼吸すると吸気とともに飛沫核が肺胞に到達します。肺胞に到達した結核菌はマクロファージに貪食され、感染が成立します。

 結核は感染に引き続いて起こる一次結核と、感染後体内で休眠していた結核菌が再活性化して起こる二次結核に分けられます。若年者は一次結核が、高齢者は二次結核が多いとされています。

 

結核の疫学

 

 現在日本は人口10万人あたり結核罹患率が約20と、中蔓延国となっています。ちなみに多くの先進国は10を下回る低蔓延国です。

 罹患者は60歳以上が約70%となっており、高齢者の結核が再燃して起こる二次結核が多くなっています。

 

 結核の80%は肺結核です。発見動機は「症状による受診」、「他疾患の診療中」、「健康診断」の3つに大別されますが、症状に基づく受診での発見が8割を占めるとされています。

 
結核の検査と診断
 

結核の検査と診断についてまとめてみました。

 

胸部X線写真・CT

 

 前述したように結核菌は好気性菌であり、酸素分圧が高い上葉に病変が多いのが特徴です。

結核は様々なX線所見を示します。画像から「結核らしい」とまでは言えますが、画像だけで結核と診断できる所見はなく、幾つかの鑑別診断が存在します。

 

粒状影(小結節影)、結節影:円形の陰影で、おおむね3mm以下が多発するものを粒状影、3mm3cmまでを結節影、それより大きいものを腫瘤影と呼びます3)。結核病変は肺胞を埋めるように始まり、乾酪壊死物質が細気管支を伝って広がり、CTでは粒状影やY字状陰影として認められます。これは結核菌が細気管支を介して肺内に経気道的に散布されるからです。これらは、いわゆる木の芽状tree-in bud appearanceを呈します。肺胞から細気管支を伝って粒状陰影が多発する所見は結核に特有ではありませんが、一般細菌には見られない所見です。

 

 粒状影が見られた場合、びまん性細気管支炎、真菌感染、過敏性肺臓炎、じん肺、悪性腫瘍の肺転移、サルコイドーシスなどが鑑別に挙がります。

 

 よく似ている所見に粟粒結核がありますが、これは経気道性に生じる粒状影とは違い、血行性に広範囲に結核菌が散布されることによって起こります。

 粟粒結核という名称は、肺内にできるおびただしい数の小さな病巣が、鳥の餌に含まれる小さな丸い粟(あわ)程度の大きさであることに由来します。粟粒結核は、1つの臓器や複数の臓器を侵すこともあれば、全身に発生することもあります。肺、肝臓、骨髄に最もよくみられますが、髄膜(脳や脊髄を覆っている組織)や心膜(心臓の外側を覆っている2層の膜)など、どの臓器にも発生する可能性があります。

 肺に生じた場合、粟粒結核は胸部X線写真では分かりにくいので、胸部CTを積極的に撮影する必要があります。

 

肺炎様陰影:肺感染症で見られる一般的な所見です。ほとんどは一般細菌による肺炎ですが、上肺野に見られた場合は注意が必要です。

 肺結核と市中肺炎の画像所見を比較した研究6)では、肺結核では上葉S1,S2の浸潤影や空洞、結節影の集簇、S6の浸潤影が有意に多いとされ、結核は上肺野に多いことが改めて示されています。ただし高齢者ではこのような典型的な陰影を示すとは限らず、画像だけで肺結核を除外するのは困難です。また一般細菌との混合感染の可能性もあります。

 

空洞病変:結核といえば空洞病変が有名です。結核病変が進行して肺組織が破壊されると空洞病変が生じます。しかし空洞は結核特有のものではありません。空洞病変を見た場合、①結核、②非結核性抗酸菌症、③肺癌、④肺アスペルギールス症、⑤肺膿瘍、⑥血管炎性肉芽種、などを考えます。

 

インターフェロンγ遊離試験(IGRA)

 BCGを受けた患者で偽陽性になるというツベルクリン反応の欠点を解決するために考案されました。ヘパリン採血で患者血液を採取し、生きたT細胞を分離して結核菌特異抗原で刺激します。結核菌に感染した患者の場合はインターフェロンγが産生されます。QFTT-SPOT2種類がありますが、基本原理は同じです。QFT-plusは感度95%、特異度98%とされ、T-SPOTは感度97.5%、特異度99.1%とされています。この数値は既感染者として排菌陽性の結核症例をあて、未感染者として結核暴露歴がないと思われる看護学生をあてています。

 IGRAの長所はBCGの影響を受けないこと、BCGのように接種、発赤測定の技術的問題がないことです。短所は生きたT細胞を必要とするため専用の採血管が必要で、その後に適切な取り扱いをしないと、検査精度に影響するかも知れないことです。他にもツベルクリン反応に比べて費用が高額です。

 IGRAは非結核性抗酸菌のうちM.avium complex(MAC)には反応しませんが、M.kansasiiとは交叉反応性があることに注意が必要です1)

 

ツベルクリン反応

 ツベルクリン反応はⅣ型の遅延アレルギーを利用した検査で、結核菌の抗原を提示されたT細胞からサイトカインが分泌され、皮膚の発赤、硬結が起こるのを測定します。基本的な原理はIGRAと同じです。インターフェロンによる発赤・硬結を測定するのがツベルクリン反応検査、インターフェロンを直接測定するのがIGRAです。

 

 ツベルクリン反応は結核感染の検査方法として長年使用されてきましたが、BCG接種を受けている患者で偽陽性が出るという問題がありました。またツベルクリンを注射し、48時間後にもう一度来院して測定する必要があるという煩雑さがあります。発赤・硬結の測定にはやや熟練を要し、主観に左右されることもあります。このため現在では徐々に行われなくなっており、IGRAに移行しつつあります。

核酸増幅検査(PCRなど)

 菌の遺伝子を酵素で増幅して検出するPCR法などの核酸増幅検査があります。塗抹検査で抗酸菌が観察されただけでは、非結核抗酸菌(NTM)の可能性があるため、結核であることは断定できません。しかしそれに加えて核酸増幅検査で陽性であれば、結核菌であることが証明されます(陽性適中率95%以上) 4)

 一般的に核酸増幅検査は塗抹検査よりも感度は高く、培養よりも感度は低いとされています。

核酸増幅検査は全体的に感度70%、特異度95%以上とされています。塗抹陽性例では感度は約95%もあります。しかし塗抹陰性例では4070%に低下します。

 培養には数週間かかるのに対し、核酸増幅法はおおむね2日前後と非常に早く結果が判明します。

 しかし核酸増幅法は塗抹検査や培養検査を代替するものではありません。培養は時間がかかるものの、薬剤感受性と結核の生菌の存在を証明するのに必要です。

 また塗抹検査は安価(61)であり、連続3回検査オーダーするのが普通ですが、核酸増幅法は高価(410)で、保険も月一回しか適用されないため、闇雲に出すことは出来ません。前述したように、塗抹陽性例の方が核酸増幅法の検出感度は高いので、連続して出した塗抹検査の陽性検体に対して核酸増幅検査を行うのがベストであると思われます。検査センターから塗抹陽性の連絡が入った時点では、検査センターに検体がまだ残っているので、核酸増幅検査を追加オーダーすれば効率がよいでしょう。ただし費用度外視で診断を急ぎたい場合は、最初から行うこともあるかも知れません。

 

喀痰塗抹検査

 喀痰塗抹検査は11回、連続3日が推奨されています。これは塗抹検査の感度が1回で64%2回で81%3回で91%というデータがあるからです5)1回だけでは4割近くを見逃すことになるので、複数回の検査は必須と言えるでしょう。

 結核菌は通常のグラム染色法で染まらないため、チール・ネルゼン染色か蛍光染色で塗抹検査を行います。以前は通常のグラム染色法のように、喀痰を直接塗抹して検査していましたが、現在では検出感度を高めるために検体をNALC-NaOHで処理した後、遠心集菌して塗抹する方法が標準になっています。

 顕微鏡で菌が抗酸菌が見えたら陽性と判断し、64菌量に応じて1+2+3+という風に記載されます。以前はガフキー号数で表されていましたが、直接塗抹法の評価法であり、10段階に区別する意義がないことから、現在では基本的に用いられていません。

 なお、喀痰塗抹検査で生きた抗酸菌が存在することは確認できますが、菌種までは分からないため、結核菌か非結核抗酸菌(NTM)かという問題があります。8割は結核菌ですが、2割非結核性抗酸菌と言われいます。

 菌種を確定するためには、核酸増幅検査を行います。核酸増幅検査であれば結核菌であるかどうか数日で判明します。結核菌は空気感染するのに対して非結核抗酸菌(NTM)はヒト-ヒト感染を起こさないので、患者の扱いに大きく影響します。

 

喀痰培養検査

 結核の最終診断には培養検査で結核の生菌の存在を確認する必要があります。また、薬剤感受性を調べるためにも生菌を確保する必要があります。結核の治療は6カ月以上にもなるため、薬剤感受性の情報は重要です。しかし状況によっては結核菌を確認するのは不可能で、結核の臨床診断を受けた患者の1520%が細菌学的確認が出来ていないと言われています4)

 塗抹検査と同様に、培養検査も1回だけでは感度が低いので、11回、連続3回行うことが推奨されています。3回行うことで培養の感度は、1回で70%2回で91%3回で99%と改善します5)

 培地は大まかに卵培地(小川培地など)、寒天培地、そして液体培地があります。結核菌を含む抗酸菌は発育が遅いため、いずれの培地でも他の菌に比べて長期間を要します。一般細菌なら1日でコロニーを形成して陽性と判定されます。しかし抗酸菌は培養陽性まで26週間程度を要します。陰性を確認できるまでの期間は固形培地で8週間、液体培地で6週間となっています。

 

痰が出ない時

 痰が出ない患者は無意識に痰を飲み込んでいるので、早朝に胃液を採取して検査する方法もあります1)。ただしこの検査は感度が低いので、ネフライザーによる高張食塩水吸入による誘発痰での検査という方法もあります4)7)。誘発喀痰と気管支肺胞洗浄検体の収量は同等で、誘発喀痰はより安全で低コストであるとされています4)

 

結核を診断した時

 

 結核は2類感染症であり、結核を診断した場合、感染症法第12条に基づいて「直ちに」最寄りの保健所経由で都道府県知事に届け出る必要があります。

 

まとめ

・結核特有の症状やX線写真の所見はありませんが、「結核らしい」と思わせる所見はあります。「慢性の咳」「進展が遅い肺炎」「X線写真で上肺野の肺炎」「X線写真で粒状影」「βラクタムが効かない肺炎」

・確定診断には結核の生菌を確認する必要がありますが、状況によっては不可能で、結核の臨床診断を受けた患者の1520%が細菌学的確認が出来ていません。

・喀痰塗抹検査で抗酸菌を確認する必要があります。2割は非結核性抗酸菌なので、喀痰陽性検体で核酸増幅法を行い、結核菌であることを確認します。

・非結核性抗酸菌は人-人感染は基本的に起こさないので、結核菌との鑑別は重要です。

・培養検査が最も感度が高いのですが、結果が判明するまで26週間を要します。結核の生菌を確認し、薬剤耐性を確認するためにも培養検査は必須です。

・痰が出ない患者には胃液検査、高張食塩水吸入による誘発痰による検査があります。

 

参考文献

1)四元秀毅 編集 結核の知識 第5版 医学書院

2)症例で学ぶ肺非結核性抗酸菌症 医学書院

3)門田淳一 監修 胸部単純X線写真読影トレーニング 南江堂

4)UpToDate :Diagnosis of pulmonary tuberculosis in adults

5)Al Zahrani, et al. Int Tuberc Lung Dis 5:855-860.2001

6)Jun-Jun Yeh. Et al. Eur Radiol 2372-2384. 2014

7)川田博 他 高張食塩水吸入誘発痰による肺結核の診断 結核 1996 71 11 p. 603-606

8)長尾大志著 レジデントのためのやさしイイ胸部画像教室 日本医事新報社