高齢者の処方にビタミンDが含まれているのはよく見ますが、今回それについて興味深い研究があったのでまとめてみました。

Supplemental Vitamin D and Incident Fractures in Midlife and Older Adults

                    N Engl J Med 2022; 387:299-309

 

Background:ビタミンDサプリメントは骨の健康に推奨されていますが、それが骨折を予防するかどうか、研究データは一貫していません。

Patient:ビタミンD欠乏、骨密度低下、骨粗鬆症のない25871人、男性49.4%、女性50.6%、男性(年齢、50歳以上)、女性(年齢、55歳以上)。

Intervention:ビタミンD32000IU/日、中央値5.3年投与、patient20%1200mg/日のカルシウムを投与。

control:プラセボ

Outcome:骨折が1991件、1551人で発生。ビタミンD投与群は骨折769件、12927人、プラセボ群で骨折782件、12944人でした。

Conclusion:ビタミンD欠乏、骨密度低下、骨粗鬆症のない高齢男女においてビタミンD投与は骨折リスクの低下をもたらしませんでした。

 

全ての骨折:HR0.9895%CI 0.89-1.08 P=0.7 有意差なし

 

非椎体骨折:HR0.9795%CI 0.87-1.07 P=0.5  有意差なし

 

大腿骨近位部骨折:HR1.0195%CI 0.7-1.47 P=0.96   有意差なし

 

骨粗鬆症とビタミンD投与

 骨粗鬆症は骨強度が低下し、骨折のリスクが増大した状態です。骨強度は骨量(骨密度)と骨質からなり、骨強度の70%は骨密度により、30%は骨質によります。骨質は、骨の微細構造、骨代謝回転、微小骨折、骨組織の石灰化度などからなります。

 

 乳幼児の骨が脆くなるくる病は、ビタミンD欠乏によって起こることが知られています。このことから、ビタミンDの欠乏が骨粗鬆症を引き起こす、ビタミンDを摂取すれば骨が丈夫になる、と考えるのは自然なことでした。このため現在では60歳以上の米国人の1/3が骨粗鬆症に対してビタミンDサプリを摂取していると推定されています2)

 ビタミンDは、腸管からのカルシウム吸収を増加させることにより血中カルシウム値を上昇させ、血中副甲状腺ホルモンを低下させることにより骨吸収を抑制し、骨芽細胞に作用して骨形成を促進するとされています3)

 またビタミンD受容体は骨格筋などにも広く分布するため、筋力やバランス機能にも働くことにより、転倒を予防する効果が予想されています。それ以外にも、ビタミンD不足は心血管イベントの発生や糖尿病などにも関連することから、それらに対する効果も期待して投与されていました4)

 かつてはビタミンD投与により骨密度が増加するという研究があり、特にエディカルシトールの効果が高いとされています。また、ビタミンDにより骨折が有意に抑制されたという報告もあります4)

 

 しかし最近、高解像度コンピュータ断層撮影を用いたビタミンDの試験で、ビタミンD投与群とプラセボ投与群の間で骨密度や骨構造に有意な差がないことが示されています5)

 残念ながら、骨に対するビタミンDの投与効果はここ数年の研究でほぼ全否定されています6)Lancet 2022;399:1080-92のレビューでは、高容量のビタミンDの有益性は示されておらず、骨量減少を加速させ、転倒や骨折のリスクを高める可能性がある、とまで言われています7)

 また、がんや心臓血管病の予防、転倒の防止、認知機能の改善、心房細動の減少、身体組成の変化、片頭痛の頻度の減少、脳卒中の転帰の改善、加齢黄斑変性の減少、膝の痛みの減少についても効果がないことが示されています2)

 カルシウムの摂取についても、一般に500mg/日以上の摂取が推奨されていますが、これより低い摂取量でも骨折率が増加するというエビデンスはありません。65歳以上の女性では、カルシウムの摂取量は骨量とは無関係です。カルシウムのサプリメント摂取は骨折を予防せず、腎結石、消化器系、心血管系の副作用を起こす可能性すらあります。カルシウムの摂取はサプリメントではなく、食事が望ましいとされています7)

  今回の研究でも、ビタミンD投与にて骨折予防効果は認められませんでした。カルシウムを追加投与された患者群でも効果はありませんでした。

 2022年現在、骨粗鬆症の治療薬として、骨吸収抑制剤と骨形成促進剤があります。骨形成抑制剤には活性化ビタミンD3製剤、ビスホスホネート製剤、選択的エストロゲン受容体モジュレーター、抗RANKL抗体があり、骨形成促進剤には副甲状腺ホルモン製剤があります。

 ビタミンDとカルシウムについては、最近の研究を踏まえて見直されるかも知れません。


 

補足

 ビタミンD製剤は、他の骨粗鬆症治療薬と併用して処方されることも多い薬です。特にビスホスホネート製剤は、単独で使用するよりもとビタミンDと併用した方が骨密度増加や骨折抑制に有効であったという報告が多くなっています4)。

 ビタミンD製剤の単独使用の効果は現在のところ否定的ですが、他の治療薬との併用に活路があるかも知れません。

 

参考文献

1)Meryl S. LeBoff, Sharon H. Chou, Kristin A. Ratliff, et al. Supplemental Vitamin D and Incident Fractures in Midlife and Older Adults. N Engl J Med 2022; 387:299-309

2)Steven R. Cummings and Clifford Rosen VITAL Findings — A Decisive Verdict on Vitamin D Supplementation. N Engl J Med 2022; 387:368-370

3)太田博明, ():ファーマナビゲーター 活性型ビタミンD3製剤編. メディカルレビュー社 2012.

4)折茂肇 監修 小川純人 編集 骨粗鬆症治療薬クリニカルクエスチョン100. 診断と治療社 

5)Burt LA, Billington EO, Rose MS, Raymond DA, Hanley DA, Boyd SK. Effect of high-dose vitamin D supplementation on volumetric bone density and bone strength: a randomized clinical trial. JAMA 2019;322:736-745.

6)http://www.nishiizu.gr.jp/intro/conference/2022/conference_2022_05.pdf

7)Ian R Reid, Emma O Billington. Drug therapy for osteoporosis in older adults. Lancet 2022 Mar 12;399(10329):1080-1092.