銀行など金融機関によるアパート・マンション建築ローンが過熱しています。それを象徴する一部銀行の取り組みが銀行業界で問題になりつつあります。金融ジャーナリスト、浪川攻さんの報告です。【毎日新聞経済プレミア】
◇不動産所有者に宅建業者を紹介
アパート・マンション建設は、不動産所有者の間で相続税対策を目的として拡大している。多くのケースは、宅建業者が不動産所有者に賃貸事業を提案し、そこに銀行など金融機関が加わりローンを提供するというパターンである。
建設を進めるため、宅建業者が空き室であっても家賃を保証するケースがある。金融庁は、こうしたパターンで行われるローン実行の際に、不動産所有者と宅建業者との契約内容について、金融機関がきちんとチェックしているかどうかに懸念を示してきた。
しかし、ここに来て銀行業界で話題になっているのは、このパターンとは異なる。銀行が不動産所有者に対して事業を提案し、そのうえで宅建業者を紹介するパターンだ。そして、その際に「一部の銀行が宅建業者から紹介手数料を得ている」という話なのだ。
日銀のマイナス金利政策を背景にして、アパート・マンションローンは銀行による金利引き下げ競争が激化している。それによる採算悪化を、紹介手数料の獲得で少しでも穴埋めするのが狙いと言える。手数料を得れば、ローンを実行した金融機関の初年度の採算はわずかでも改善するだろう。しかし、この取り組みは妥当なのか。
銀行の業務は銀行法で規定され、その細目は金融庁が策定する「監督指針・ガイドライン」で具体的に示されている。銀行法では、預金、貸し付け、為替といった業務が銀行本来の「固有業務」と位置づけられ、それ以外は「その他の銀行業に付随する業務」と位置づけられている。
◇「銀行業に付随する業務」に該当するか
紹介手数料は、この「銀行業に付随する業務」に該当するのか。金融庁は2016年6月に「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」を公表した。この指針では、「コンサルティング業務、ビジネスマッチング業務、(中略)については取引企業に対する経営相談、支援機能の強化の観点から、『その他の付随業務』に該当する」としている。
賃貸事業を開始する不動産所有者を宅建業者に紹介することは「ビジネスマッチング業務」だというのが、紹介手数料を得る銀行側の論理のようである。このため、「その他の付随業務」に該当し、手数料を得ても問題はないという考え方だ。
しかし、金融庁がアパートローンについてこれだけ警戒感を強めていることを踏まえると、監督指針の規定が、アパートローンの紹介手数料を念頭に置いたものとは考えにくい。「法的にはグレー」というそしりを受けかねないのだ。
金融庁は近年、担保に依存せず、事業性を評価する融資を金融機関に求めている。アパート・マンションローンは果たして、賃貸事業に着目した事業性ローンなのか、それとも、不動産に着目した担保ローンなのかというそもそも論もある。
人口減で空き家が増えている時代に、雨後のタケノコのように相続税対策のアパート・マンションが建てられている問題がメディアに広く取り上げられるようになってきた。この「紹介手数料」の問題がこの先どうなるか。現時点では予想できない。