週末に国立劇場へ「仮名手本忠臣蔵」を見に行ってまいりました。


歌舞伎見人(かぶきみるひと)



歌舞伎見人(かぶきみるひと)


*********************************************************************

12月歌舞伎公演「仮名手本忠臣蔵」

2010年12月3日(金) ~ 2010年12月26日(日)


12月11日(土) 11時30分開演


竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
仮名手本忠臣蔵  五幕


三段目  足利館松の間刃傷の場

四段目  扇ヶ谷塩冶判官切腹の場
       同 表門城明渡しの場

浄瑠璃  道行旅路の花聟-清元連中-

七段目  祗園一力茶屋の場

十一段目 高家表門討入の場
       同 奥庭泉水の場
       同 炭部屋本懐の場
       引揚げの場


(出演)

  松本 幸四郎
  中村 福 助
  中村 錦之助
  市川 染五郎
  市川 高麗蔵
  市川 門之助
  市川 男女蔵
  中村 亀 鶴
  澤村 宗之助
  中村 児太郎
  松本 錦 吾
  大谷 桂 三
  澤村 由次郎
  市川 右之助
  坂東 秀 調
  市村 家 橘
  大谷 友右衛門
  坂東 彦三郎
  市川 左團次 ほか

**********************************************************************


今回は、一階席前方サイドブロックの、お得な2500円の席から見物。


↓こちら、通路から3つ目のお席。前列の人がけっこう視界に入り、頭を右に左に傾けながら見ることになります。
歌舞伎見人(かぶきみるひと)


↓ところが通路から二つ目のお席ですと、非常に視界良好でした。(写真では前の列の人は席をちょうど

 外しておられますが。座っておられたとしても、気になりませんでした。)
歌舞伎見人(かぶきみるひと)

タイムスケジュールはこちら。休憩時間は案外と短いです。最初の1幕は2時間もあるのですね!
歌舞伎見人(かぶきみるひと)

以下、感想をとりとめもなく書き連ねさせていただきます。


 幸四郎さんは、今回由良之助と師直の二役を務められ、師直は初役だったそうですが、

 初役とはとても思えないほどの堂々たる師直っぷりでした。花道から黒の大紋姿で

 のっしのっし、と歩いてこられる、その歩き方は、貫録を感じさせるだけではく、

 その時代の空気をそのまま再現したかのような、とてもリアリティのある歩き方で、

 なんて「でっかい」師直なのだろう・・・・と、(背丈のことではなく、役者っぷりが

 「でっけぇ~~」ということです、もちろん。)。こんな大きな師直は、初めて見たかも

 しれないなあと感嘆しました。

 そしてその後の判官いびりのシーンでも、まあこれが本当に悪そうで。(笑)

 悪役メイクもよく似合っていらっしゃるし、痛快なほど意地の悪そうな師直でした。


 対する判官役は染五郎さん、こちらも初役だそうですが、これがまたよくお似合いで。

 元々ニンにあったお役でしたしね。初役とはとても思えないほど、よく似合ってらっしゃいましたし、

 透明感と清潔感の漂う塩冶判官でした。

 

 判官切腹のシーンで、腹と喉笛を掻き切った判官は前のめりに突っ伏して息絶えますが、

 石堂や薬師寺が去った後、由良之助が判官の衣服を整える場面があります。

 初めて知ったのですが、前のめりに突っ伏している使者の足を後ろに伸ばし、うつむけに

 寝かせたままにするのが作法のようですね。日本人は仰向けで寝る文化ですから、

 うつむけで人を寝かせておくというのが、何だかとても意外でした。


 四段目上演中のイヤフォンガイドで、なぜ武士が腹を切ったかというと、日本人には「腹に魂が宿る」という

 考え方があったからだそうで。「腹を割って話す」「腹黒い」などの言いまわしにもあらわれているように、

 脳や心臓ではなく、腹に魂がある、というのが昔の日本人の考え方だったそうです。

 ですので、自刃するときは、腹を切るのだと。なるほど。

 我々現代の日本人の感覚では、魂のある場所は脳・・・でしょうかね。腹は、単なる内臓のある場所ですよね。


 今回左団次さんは、善人の石堂役でしたが、普段は悪人の薬師寺の役の方が多いそうで。

 ですが、石堂役もとてもよく似合っていらして、新鮮だなあと思いながら拝見しました。

 一方の薬師寺役の彦三郎さんは、渋さだけでなく、若さもある役作りで、こちらも新鮮でした。


 「染模様恩愛御書」に出演された、講談師の旭堂南左衛門さんが、七段目に登場されます。

 スッポンからセリ上がってのご登場。今回の公演では上演されない、五段目、六段目で何があったのかを

 要点だけかいつまんで説明をする、というのが南左衛門さんの役割でしたが、

 その説明が、本当に短くまとめられたものでしたので、「忠臣蔵」を知っている人には理解できても、

 「忠臣蔵」を知らない人にはまず理解できだろうという、帯に短し襷にギリギリ、な説明で、

 舞台効果としては疑問符の残る演出だったように自分は思いました。

 

 四段目の後の、おかると三平の道行ですが、福助さん演じるおかるが、恋人の勘平と一緒にいられることが

 嬉しくて仕方がないといった様子で、終始、福助さんの御顔から笑みが絶えることがありませんでした。

 三平は死ななくては申し開きができなくらい、職務上取り返しのつかない大変な失態を犯しましたから、

 とてつもなく落ち込んでいるはずですが、おかるは無神経なほどに幸せそうに見えます。

 イヤフォンガイドによれば、おかるは、沈みがちな勘平の気持ちを引き立てようと、精一杯努力している

 のだとか。そう言われれば、健気ですね。


 討ち入りのシーンでは、染五郎さんは寺岡平右衛門役での登場。ですが台詞がほとんどないので、

 知らずに見た人は、最後の花道からの引揚げの場面まで、染五郎さんが浪士の一人として舞台に登場して

 いたと気がつかなかったのでは・・・ なんてことは、まあないですね。(笑)


 幸四郎さんは、この場面では由良之助役での登場ですので、最後に師直が引きずり出されて討ち取られる

 場面では、吹き替えの人が師直を演じておられました。




そういえば今回、幕間に、緞帳お披露目タイムがありました。

(初めて見ましたが、しばしば行われているものなのでしょうか?)


大劇場には3枚の緞帳があるそうで、まず1枚目↓歌舞伎見人(かぶきみるひと)


1枚目が引き上げられると、2枚目登場↓
歌舞伎見人(かぶきみるひと)


歌舞伎見人(かぶきみるひと)

そして3枚目↓
歌舞伎見人(かぶきみるひと)



話は変わりますが、この日、お芝居見物のおやつにと思い、新橋にある忠臣蔵ゆかりの和菓子屋さん

「新正堂」(過去記事は→コチラ )に朝出かけてお菓子を買いこんでから、国立劇場に向かったのですが、

自分の他にも、新正堂の紙袋を手に提げたお客さんがおり、はて、物好きな人が(自分以外にも)

いらっしゃるものだな、などと思っていたのですが、後ほど劇場の売店で、新正堂の「切腹最中」が販売

されているのを見つけて、ちょっとしためまいを覚えました。(笑)

新正堂の和菓子については、次の記事でレポートいたします。



ところで、国立劇場敷地内にあります伝統芸能情報館では、今月も引き続き、「歌舞伎俳優養成40年の歩み

という企画展が行われています。展示物は先月と変わりありませんでしたが、奥の映像コーナーで流されている

ビデオが先月とは違うものでした。

歌舞伎見人(かぶきみるひと)


今月のビデオは女形が出来上がるまで(化粧だけでなく、育成という点からも)を紹介したもので、

俳優の卵たちを又五郎さんが指導し、発表会で寺子屋を上演するまでのドキュメンタリー形式でした。

映像の中で、若き日の竹本清太夫さんが語ってらっしゃったのが、一番の眼目だったかもしれません。



ひとまずこれにて。