10月の三連休初日、国立劇場へ行ってまいりました。


歌舞伎見人(かぶきみるひと)


↓左が今月のポスター。真山青果2作品。 右は来月の「国性爺合戦」。
歌舞伎見人(かぶきみるひと)


最後列からの眺め。国立劇場は、後ろの席でも本当に見やすくて素晴らしいです。
歌舞伎見人(かぶきみるひと)

こちら、タイムスケジュール。
歌舞伎見人(かぶきみるひと)

*********************************************************************

国立劇場
10月歌舞伎公演「天保遊侠録」「将軍江戸を去る」

平成22年10月3日(日) ~ 10月27日(水)


10月9日(土)


一、天保遊侠録

第一場 向島料理茶屋
第二場 同 囲い外


    勝小吉 中村吉右衛門

    八重次 中村芝雀

 松坂庄之助 市川染五郎

 飯田甚九郎 市川高麗蔵

 井上角兵衛 松本錦吾

大久保上野介 大谷桂三

   阿茶の局 中村東蔵

 勝麟太郎 中村梅丸


二、将軍江戸を去る

第一幕      江戸薩摩屋敷
第二幕 第一場 上野の彰義隊
     第二場 同 大慈院
      第三場 千住の大橋


徳川慶喜 中村吉右衛門

勝麟太郎 中村可六

西郷吉之助 中村歌昇

山岡鉄太郎 市川染五郎

村田新八 中村松江

中村半次郎/間宮金八郎 中村種太郎

土肥庄次郎/三之助 中村種之助

美濃部の母 中村吉之丞

久保三弥の隠居 大谷桂三

天野八郎/名もなき者 澤村由次郎

高橋伊勢守 中村東蔵

*********************************************************************


一、天保遊侠録


緞帳が上がってまず感じたのは、新歌舞伎だけあって、セットがリアルで、セットを見ているだけでも

目の愉しみになるということ。このように感じるようになったとは、自分の目も脳も、すっかり歌舞伎に

染まってしまったのだなと思いました。


真山青果作品は、台詞の応酬で魅せる心理劇が多いと思いますが、

とにかく台詞の量が膨大で役者泣かせ。

私が拝見しました日は、初日が開いてから約1週間たった頃でしたが、

台詞がまだ完全に入っていない役者さんも多かったようで、みなさん台詞につかえたり、

「あー、うー」の声頻発。プロンプターの声も三階席まで届き、なんだかお稽古を拝見しているような

気になってしまい、安心してお芝居を楽しむ、という心境にはなれませんでした。

これは月の終わり近くに行けば、だいぶ変わっているのだろうと思います。

まあ、歌舞伎は、そういった「作り込み中」の部分を見ることもできるのが、一興であると思います。


この「天保遊侠録」は、シリアスな心理劇でもなく、泣かせる人情話でもなく、ただひたすら、

主人公の勝小吉の、江戸ッ子らしい、粋で魅力的なキャラクターを楽しむことに尽きる作品だと思うのですが、

吉右衛門さんは愛嬌のある人物を演じさせたら天下一品のお方ですので、

微笑ましく、楽しませていただきました。


小吉と、小吉の甥の庄之助が、実際の叔父と甥っ子である吉右衛門さんと染五郎さんで演じられていた点も、

面白さを倍増させていましたね。庄之助が「おじさぁん!」と呼びかけるところなど、お客さんは皆、腹の中で

「クスッ」とほほ笑んでいたと思います。


染五郎さん演じる庄之助は、阿呆面な化粧で、しょっちゅうヨダレを垂らしているという、

しまりのない田舎の若者の役でしたが、いや~、面白かったです!子供っぽい様に愛嬌があり、

実生活では人の親だということを忘れてしまうような若者ぶりでした。


芝雀さん、最近吉右衛門さんとの共演が多い気がしますが、今回は芸者役。

これがいい具合にはまっておいでで、嬉しい収穫でした。


大谷桂三さん演じる、大久保上野介は、少しバカ殿風の、能天気な役で、愛嬌があって面白かったです。


小吉の息子、勝麟太郎を、中学生くらいの男の子が演じていまして、とても綺麗な顔立ちをしておいでで、

はて、誰だろう、顎のあたりや、ほっぺのあたりが、梅玉さんの部屋子の梅丸君によく似ているけれど、

もっと大人っぽく見えるし、梅玉さんは今月は演舞場にご出演だし・・・? と、お芝居見物中、ずっと気になって

いたのですが、後で筋書きで確認しましたところ、やはり梅丸君でした。随分大きくなられたのですねえ。

将来は立役、女形、どちらに進まれるのでしょう。

成長と今後の活躍が楽しみです。


二、将軍江戸を去る

「天保遊侠録」と微妙に時代がかぶっており、どちらの芝居にも勝麟太郎(勝海舟)が登場するのがポイント。

「天保~」では、あんなに天才肌の優等生だった勝麟太郎ですが、「将軍江戸を去る」では、キレて凄味もあり

くだけたところもある、豪快な男。歌六さんが演じてらっしゃいました。


第一幕の江戸薩摩屋敷の場冒頭では、中村種太郎君が血気盛んな中村半次郎役を熱く演じておられて、

きっと、お芝居が好きなんだろうなあと感じました。これからの活躍がますます楽しみです。


この場は、歌六さん演じる勝海舟と、歌昇さん演じる西郷吉之助との台詞の応酬で、小一時間を

見せ切りますが、凄いのが、吉之助の台詞の長さ!!一体、台本何ページ分、お一人でひたすら

話し続けておられるのだろう、と想像してしまうくらい、歌昇さんの独壇場といいますか、試練の場といいますか。

西郷吉之助の台詞が一しきり語られた後に客席から起こった拍手の何割かは、「よくこの長いセリフを

ものにされましたね!」という感嘆の拍手だったのではないかと思います。



それにしても、この「将軍江戸を去る」というお芝居を見ていて、ラストにいつも思ってしまうのは、

「いくらなんでも、将軍だった人が徒歩で江戸を去るなんてありえないのでは・・・?」ということです。(笑)


ところで、国立劇場のロッカーは、今時あり得ないくらいの低料金で利用できるのですね!
歌舞伎見人(かぶきみるひと)


↓小ロッカーが10円、大ロッカーが20円です!!
歌舞伎見人(かぶきみるひと)



さて、お芝居を観終わった後、敷地内にある「伝統芸能情報館」へ足を運んでみました。

1月27日まで、「歌舞伎俳優養成 40年の歩み」という企画展を開催中です。
歌舞伎見人(かぶきみるひと)


******************************************************************

伝統芸能情報館 企画展示「歌舞伎俳優養成40年の歩み」


国立劇場が設立された目的の一つである「伝承者の養成」は歌舞伎俳優養成事業が昭和45年に開始され、

その後、文楽、歌舞伎音楽(竹本・鳴物・長唄)、大衆芸能(寄席囃子・太神楽)、能楽(三役)、組踊、そして

新国立劇場においてはオペラ・バレエ・演劇の各分野において養成事業を実施しています。
 今年は歌舞伎俳優養成事業がスタートして40年目を迎えました。これを記念して、歌舞伎俳優養成事業の

概要と40年間の成果に焦点を当てた展示を企画しました。


期 間:平成22年10月3日(日)~平成23年1月27日(木)
時 間:午前10時~午後6時(毎月第3水曜日は午後8時まで)
休室日:平成22年12月29日(水)~平成23年1月2日(日)

http://www.ntj.jac.go.jp/topics/news100915.html


*******************************************************************


「歌舞伎俳優養成研修」は昭和42年の開講以来、平成22年4月には第20期の研修を開講するに至ったそうで、

現在、歌舞伎俳優として活躍している修了生は89名だそうです。全歌舞伎俳優の約30%に相当します。

(歌舞伎俳優養成事業についての詳細ページはこちら→www.ntj.jac.go.jp/training/training1.html


展示室には、養成所出身の歌舞伎俳優さんのパネルが期ごとに飾られていまして、

「あの人も養成所出身だったの!?」という意外な発見もありました。

紫若さんは1期生、歌女之丞さん、芝喜松さんは2期生だそうです。


以下、パンフレットから抜き書きします。

・研修期間は、当初は1年10カ月でしたが、第11期から2年間、第18期から3年間となった

・研修は10時30分から始まり、1コマ80分で、10分間の休憩を挟み、最大4コマ

・研修は、歌舞伎実技・立ち廻り・化粧・歌舞伎音楽(義太夫・長唄・三味線・鳴物)・筝曲・日本舞踊・

 歌舞伎概論・作法・体操・公演見学・楽屋実習・部外研修(史蹟見学)・あげ浚い・研修発表会により構成


また、展示室の一角で、ビデオ上映も行われているのですが、月によって内容が変わります。

10月 「歌舞伎・芸の継承 -女方-」 昭和61年

    中村梅花先生の女方の指導に焦点を当て、過去から現代、未来へと伝承されていく女方芸をとらえて

    います。

11月 「江戸歌舞伎の華 -荒事入門-」 昭和60年

    中村又五郎先生・尾上菊蔵先生による荒事の基本訓練、歴史と典型的な舞台をとりあげ、荒事を演ずる

    心得をわかりやすく紹介します。

12月 「歌舞伎に生きる -女方への道-」 昭和57年

    中村又五郎先生の指導による、伝統芸能伝承のきびしさと、そこに流れる指定愛をあますところなく記録

    しました。

1月 「歌舞伎の立廻り」 昭和56年

    坂東八重之助先生による舞台の指導と、後継者育成に情熱を傾ける姿を追い、それと共に本舞台での

    立廻りの楽しさを紹介します。


10月のビデオは、成駒屋の生き字引と呼ばれた梅花さんが、研修生に指導する様子を記録したもので、

稚魚の会で「加賀見山旧錦絵」を上演するまでのお稽古風景や本番の映像が見られます。

梅花さんが、「だめだめ、それはこうでしょ、これはこうでしょ」と、身をもって手本を示される様子がとても

興味深かったです。

そして、その稚魚の会の映像では、私めが常々、「綺麗な女方さんだなあ」と思っている京紫さんがお初役で、

これはラッキー♪と、食い入るように見てしまいました。

京紫さん、ちょうど国立劇場の「天保遊侠録」にご出演中でしたので、タイムリーな映像でした。


また、芝翫さんや福助さん、橋之助さんも、映像の中に登場されましたが、福助さんが今とほとんどお変わり

なかったのに対し、橋之助さんは、声も姿も、ずいぶんお変りになられたようで驚きました。

昭和61年の映像ですので、成駒屋ファンの方には必見の映像です!