歌舞伎町のカラス

はじめましてカラスです。
19歳の少年が歌舞伎町という街で風俗店で働く日々の葛藤を描いた物語です。
実体験を織りまぜながら書いています。
様々な人の視点から見れるよう執筆して行きますので宜しくお願いします。
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初日1

浩一は言われた通り朝の9時に新宿に向かった。

新宿の朝はレストランで働いていた頃と変わらず、すごい人だ。
ただやはり新宿の東口を出て歌舞伎町に向かう人はスーツ等来ていない。

アフター後のキャバ嬢。
仕事終わりのホスト。ホストは何故か集団だ。

ドンキホーテーがある交差点の向かいに立つと、この横断歩道が歌舞伎町の入り口な気がする。
今日からこの街が俺の街。

昨日、訪れた雑居ビルの階段を下りる。
地下1階の工事は既に始まっていた。

地下2階に降りると掃除機の音がしていた。

「本日からお世話になる  」

「あー君ね!柴田さん~!!新人来ました!!」
昨日の眼鏡の老け顔が奥に向かって叫ぶ。

奥から眠たそうな顔の昔のアイドルな様なマスクの柴田が出てくる。
「おはようございます、じゃあ早速着替えて」
柴田は目をこすりながら店を案内してくれた。
昨日の受付の横に大きく門構えていた紺色のカーテンが開いていてその先には
細長ーい階段に規則正しく番号がついているドアがあった。
全部で個室が12部屋。
その先のカーテンをめくると独特の臭いがする。
無数のピンク色のバスタオルが入った袋が並べられ、棚には各ボディーソープや
うがい薬、構内洗浄液、ローションが並べられていて、まるで薬局の様な陳列だった。
先程の眼鏡の老け顔が掃除機を終え、ローションを詰め替えいる。

「君名前は?」
柴田が聞いてくる

「奥田浩一です。」

「今日から入った奥田君」
柴田が眼鏡の老け顔に紹介してくれる。
この作業部屋は待合室ともカーテンでつながれている為薄暗かったが、
眼鏡の老け顔の脂ぎった顔はわかる。
「どうも山田です。」
どうやら山田と言うらしい。
今まで女に縁がない故に、この職業を選んだオーラがとてもした。

「どうも奥田です。」

「山ちゃんは先週入ったから同じ位だよ。」
柴田が教えてくれた。

「ここで着替えて」
柴田に促され、1年前に知り合いの結婚式に招待され初任給で買ったスーツを取り出した。
昨日大柄な木村にスーツのズボンとワイシャツとネクタイを持ってくるよう言われいた。
1年ぶりに履くスラックスはややきつめでネクタイは結婚式の時は父のを借りていたので
高校の時のネクタイを持参した。
浩一の高校は学区内でもおしゃれな4色の柄が入った斜めストライプのネクタイで
着けていても、おかしくないと思った。
着替え終わると柴田が店を案内してくれる。

廊下には幾つか紺色の様々なカーテンがかかっていた。

「まず部屋ね、全部で10部屋あるから。
 部屋は1から10番で呼び合うから覚えといて。出口からさっきの奥の順番に1から10」
受付のもう一つの大きな紺色のカーテンは出口の様だ。
3番の部屋の前のカーテンを開けると受付の小窓の中だった。
約1畳半のスペースに受付用紙やカード、パソコンが1台置かれていて
大人3人が入るといっぱいだった。
その中に強面な40代の身長の低いもののガタイの良い中年のおじさんがいた。
「ここが受付ね、あっ佐藤さん今日からの新人です」

「どうも奥田です。」
強面な男は無愛想な表情で無言のまま会釈した。
とても印象は良くなく、後に浩一の最大の天敵になる。

4番の部屋の横のカーテンをめくると棚になっており、コンドーム
ティッシュ、ローションボトル、ピンクローター、バイブ、女性用のパンツ、
ポロライドカメラが置いてあった。

廊下の上には棚があり、各かごに風俗嬢の私物等が入っていた。
中身はメイク道具や、膣内洗浄の薬品、飴、アイロン等であった。
「奥田君の私物もここに入れといて」

8番の隣には薄い黄色のカーテンがかかっていてめくると
袋から取り出されたバスタオルが置かれ、ハンガーに綺麗にかかった
女子高生の制服、ブレザー、セーラー服、セーター、ブラウス、リボン、
体操着、ブルマが掛けられていて、下のかごに10足以上の
ルーズソックスと紺色のハイソックスがあった。

「ここは女の子達が、お客さんの指名でコスチュームを取りにきたり、バスタオルを
取りにくる場所。あとは、さっきの作業部屋ね。こんなもんか・・・
あっそうだ!」

柴田は思い出した様に次の場所に連れて行く。
この狭い店にまだ場所があるのか?
入り口の方の大きなカーテンを入ってすぐ横に3畳程の電車ルームがあった。
それは浩一には信じられない光景だった。

壁には本当の電車の中にいる様な写真。
誰かが録音したであろう、大音量でかかる山手線の車内の音。
つり革がポールに両側に4個ずつあり待合室に面した壁を除いては本当の電車にいるようだ。
待合室に面した壁には電車の様な窓がなっていて、待ち合い室が丸見えだった。
昨日鏡ガラスだと思っていた待合室のガラスはマジックミラーになっていて中から見える仕組みになっていた。
痴漢等の性癖等全くない浩一は呆然とした。
「すごいでしょ」
柴田が自慢げに話してくる。
「ここで痴漢コースをするから」

言っている意味が全く分からなかった。

「おっそろそろ10時だオープンするから」
全部のカーテンが降ろされ先程明るかった廊下は暗く照明が落とされ、
昨日と同様洋楽の有線が大音量でかかる。

柴田の指示で店の受付の前に立たされる。
柴田が受付の中から小窓から顔を出し
「今日は受付を覚えてほしいから、ここで見ながら覚えて」
柴田はとても優しかった。先程から時間が経っているのに未だに眠そうな目は、どうやら生まれつきみたいだ。

女の子が一人入って来た。
「おはようございます」
入るなりすぐに出口のカーテンへ入る、裏で廊下の棚から道具を取り出している様だ。
顔も何も見えない位のスピードで入っていたので次は見てみよう。
初めて目の前に現れる風俗嬢に浩一は興奮していた。

階段からヒールの踏みつける音がする、身長は170cm位のモデルの様なスタイルの女の子
いや女性が入って来た。
「おっはよーん」
先程の女性とは違い、明るく店に登場して来た。
柴田は
「おはよーあいちゃん。今日からの新人奥田君」

あいちゃんは遠くから見ると、とてもスレンダーでモデルの様だ
顔もとても整っていて浩一の憧れるルックスだった。

緊張しながら
「奥田です。」と簡単な自己紹介をする。

「よろしくねー。若いね~辞めないで頑張ってね」
こんな綺麗な人が、ある意味ショックだった。
何にも分からないが、自分が憧れる様な人が風俗嬢なんて。

あいちゃんは小窓を覗き今日の予約の確認をしている。
あいちゃんが柴田に指示された部屋へ入る音がすると、
「あれ一応看板だから」

「看板?」

「分かりやすく言ったら看板娘。うちのビルの看板にもなってるし
 雑誌とかの店のページにもでてるから。
 良い子なんだけど、身長でかいから妹って感じじゃないんだけどね~」
柴田は笑いながら小窓越しに説明をしてくれた。

確かに店の名前は

妹は甘えん坊

きれいな女性じゃなくロリーターが売りなんだ。でもなんで看板なんだろう?
そんな疑問を持ちながら3人の風俗嬢が出勤した。計5人。
てっきり満室になると思っていた浩一は驚いた。
時間は10時遂に店が開いた。

入り口の自動ドアは常に開いており、階段の静けさが入り口の受付に漂ってくる。
階段の奥の方から鈍い降りてくる音がした。

遂に初めて見る、風俗に来る客だ。
緊張した。
もし知り合いならどうしよう。

しかし階段から降りてくる音は徐々に近づいてくる。