都心から車で30分ほど郊外にある老人介護施設。入居者が暮らす一室から、車いす姿で現れた1人の女性の表情は、暗く沈んでいた。
「あの娘のやったことは絶対に許せない。夫がせっかく残した会社をメチャクチャにして…。わが娘ながら刑事告訴も視野に入れています」
こう怒りを露わにする彼女は、榎本朱美さん(83才)。新宿歌舞伎町の伝説のホストクラブ『愛』を立ち上げ、「夜王」と称された愛田武氏(74才)の妻である。
今、そのホストクラブは、他店への身売り話が出るほどの経営難に陥り、裏では骨肉憎悪のお家騒動まで起きていた──。
1971年にオープンした『愛』は、2000年台に入ると歌舞伎町に系列店を5店舗を構えるまでに成長。ホスト総勢300人、年商27億円という、業界一の地位を不動のものにした。
しかし、店に異変が起きたのは2011年の夏。愛田氏が脳梗塞で倒れたのだ。彼はそのまま入院し、免疫不全の病気も併発していたため、体調も回復せず、経営者として働き続けるのは不可能となってしまう。
結果、『愛』の経営は、長女(57才)が任されることとなった。
「長女に任せていいのか、議論はあったんですが、主人は昔から彼女をかわいがっていましたし、彼女もまた“自分が父の会社を守りたい”という強い意志を見せていましたので…。それに、あの娘は『愛』で事務職を30年近くやっていたから、経営を任せても大丈夫だろうと信じていたんです…」(朱美さん)
しかし、それは大きな間違いだった。彼女は経営者になった途端、豹変した。
「わが物顔で会社を私物化し始めたんです。売り上げ金にも手をつけ、自分の一存で大金を懐に入れて、私や主人の給料も払わなくなりました。それだけじゃなく、自分のお店のホストに次から次へと手を出し始める始末です。1人のホストに入れ込んで、飽きたら次のホストへ…といった具合で、会社のお金でお気に入りのホストに車をプレゼントしたり、勝手に給料を上乗せしたり…。当然、これまでずっと主人についてきた他のホストたちは、長女の行動に怒りを露わにし始めました」(朱美さん)
これまでの『愛』には、愛田氏が築き上げてきた哲学が浸透していた。それは、売り上げ以上に大事にされた、社長とホストの間の信頼関係である。
「ホストを束ね上げるのに必要なのは、お金ではなく“信頼”なんです。信頼がないと、彼らは他店に移ってしまう。結局、無茶苦茶な彼女の行動に、ホストたちはみな離れていき、最終的に40人ほどに激減してしまったんです。それに伴い、お客さんもどんどん減っていきました」(朱美さん)
不幸は重なり、こんななか、愛田氏は脳梗塞の後遺症で、認知症を患ってしまう。朱美さんとは別の老人介護施設に入所した愛田氏は、もはやお店のことは何もわからなくなってしまった。
そして今年3月、経営危機に対処するため、長女は知人を介して1人の経営アドバイザーを雇った。それが、高岡早紀の兄・高岡賢太郎氏(44才)だった。彼はIT関係の実業家でもあり、夜の世界にも精通していた。
「高岡さんは、なんとか黒字にしようと、一生懸命頑張ってくださいました。長女がお金を不正に持ち出さないよう、パソコンで収支を厳重管理して、“お気に入りのホストの給料を勝手に上げるのはやめてください”と、彼女に忠告もしていただいて…」(朱美さん)
ついには、資金繰りが苦しくなり、店の存続が危ぶまれる状態にまでなった。このときに長女の取った行動に、朱美さんは今も思い出すだけで涙を流す。
「私が30年間住んでいた新宿のマンションを、勝手に売却したんです。あのマンションは、私と主人が持っていた、唯一の財産だったのに…。マンションの名義は主人だったのですが、認知症の主人を施設から車いすで連れ出し、あの娘は主人の手を持ってサインさせたんです。実の親を相手に、そこまで非道なことができるなんて…」(朱美さん)
この時、長女は、マンションにあった愛田氏の私物も全て処分したという。
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