(おばさんは、空っぽの籠を愛おしそうに抱え、何もない空間を撫でている。その目は焦点が合っておらず、口元だけが歪に笑っている)
「いやなんよ……。
さっきから、この子が離してくれんのよ。
ほら、見てごらん。真っ白で、ふわっふわの産着を着た……私のかわいい孫だよ。
……え? 何も見えん?
あんた、何をおかしなこと言っとるん。ここに、温かい重みがあるじゃない。
さっきから、この子が離してくれんのよ。
ほら、見てごらん。真っ白で、ふわっふわの産着を着た……私のかわいい孫だよ。
……え? 何も見えん?
あんた、何をおかしなこと言っとるん。ここに、温かい重みがあるじゃない。
さっき、野良仕事の帰りにね、細い道の向こうから着物姿の綺麗な娘さんが歩いてきて。
『これ、預かってください』って、この子を渡されたんよ。
それからというもの……なんだか周りの景色が、ゆらゆらと陽炎(かげろう)みたいに揺れてね。
いつも通るはずの帰り道が、どこまで行っても終わらんのよ。
『これ、預かってください』って、この子を渡されたんよ。
それからというもの……なんだか周りの景色が、ゆらゆらと陽炎(かげろう)みたいに揺れてね。
いつも通るはずの帰り道が、どこまで行っても終わらんのよ。
道端の地蔵さんが、こっちを見てニタニタ笑っとる気がするし……。
風が吹くたびに、耳元で『コン、コン』って、誰かが囁くんよ。
『おばさん、その子は重いだろう、その子は重いだろう』って。
風が吹くたびに、耳元で『コン、コン』って、誰かが囁くんよ。
『おばさん、その子は重いだろう、その子は重いだろう』って。
……いやなんよ。
この子の顔、さっきからよく見ようと思っても、霧がかかったみたいにぼやけて見えん。
それに、抱いとる腕が……だんだん、石みたいに重くなってきて。
指先が冷たくて、なんだか獣の匂いがするんよ。
この子の顔、さっきからよく見ようと思っても、霧がかかったみたいにぼやけて見えん。
それに、抱いとる腕が……だんだん、石みたいに重くなってきて。
指先が冷たくて、なんだか獣の匂いがするんよ。
あんた、助けておくれ。
この子の産着の隙間から……茶色い毛の生えた、太い尻尾が見えた気がしたんよ。
でも、手放そうと思うと、頭がぼうっとして……。
どこからか、クスクス笑う声が聞こえてくる。
この子の産着の隙間から……茶色い毛の生えた、太い尻尾が見えた気がしたんよ。
でも、手放そうと思うと、頭がぼうっとして……。
どこからか、クスクス笑う声が聞こえてくる。
……いやなんよ。
私、もう自分の家がどっちだったか、わからんくなってしもうた。
ねえ、あんた……。
あんたの顔も、なんだか尖って……狐みたいに見えてきたよ……。」
私、もう自分の家がどっちだったか、わからんくなってしもうた。
ねえ、あんた……。
あんたの顔も、なんだか尖って……狐みたいに見えてきたよ……。」


