痛い「こむらがえり」の正しい応急法…繰り返すなら服薬、注射も 「明け方にふくらはぎが 痙攣けいれん して、あまりの痛さに飛び起きたんです。家内をたたき起こして、足の親指を引っ張ってもらい、その場はおさまったんですが、昼になってもまだ痛くて」と言って、受診される方がおられる。カビゴンも、夜中にこむら返りをよくおこして受診したことがあります。同様の痛い経験をお持ちの方も少なくはないだろう。さて、今回のテーマは、この「こむらがえり」である。 

こむらがえりとは、ふくらはぎに起こる痛みを伴った筋肉の痙攣(つり)であるが、医学的には「 腓腹筋ひふくきん 痙攣」と言う。別名「転筋」とも称され、「てんきん」「からすなえり」「からすなめり」と3通りの読み方がある。『日本語大辞典』(講談社)に、「こむら(腓)とはふくらはぎ(腓腹)、こぶら」とあることから、「こぶらがえり」と呼んでもよいだろう。なお、地方によっては、ふくらはぎのことを「くそぶくろ」と呼ぶこともあるようだが、「くそぶくろがえり」とは言わないようだ。 ふくらはぎにある 下腿三頭筋かたいさんとうきん (二つの頭を持つ腓腹筋、その奥にあるヒラメ筋)の一部が異常に縮んでしまう現象が、こむらがえりである。このとき、つっている筋肉に触れてみると硬くなっているはずだ。では、なぜ痛みを伴うのか? それは、筋肉が強く縮んで硬くなると、縮んでいる筋肉の線維とそうではない線維との間にズレが生じ、それが筋肉に枝を出している神経の先端(「侵害受容器」、これが痛みの受け皿である)を刺激するからである。 この筋肉の痙攣は、ふくらはぎだけでなく、首や肩、指にも起きる。私も診療中(患者さんへのトリガーポイント注射を行っている最中)に、右の人さし指がつりかけることがあり、この場合には注射を“ちょっとたんま!”することになる。

【寝返りをうった途端…】 ゴルフやテニス、水泳などのスポーツを楽しんでいる最中のみならず、就眠中(特に寒い時期の明け方)に寝床のなかで伸びや寝返りをうった途端、起きることが多い。一度起こってしまうと癖になって、繰り返すので厄介だ。 原因は、筋肉の疲労、その逆に運動不足、脱水や体液の成分である電解質の異常(カリウム、カルシウム、マグネシウムの不足)などが考えられる。したがって、下痢で脱水を起こしている時、妊娠中のカルシウムやマグネシウムの不足、糖尿病や肝硬変、腎不全などによって電解質のバランスが崩れている時にも起こりやすい。また、脚の伏在静脈に静脈 瘤りゅう がある場合にも起こりやすくなるが、これは心臓に血液を送り返している静脈のポンプ機能の低下が原因と考えられている。

【漢方薬に速効性】 治療は、漢方薬の 芍薬甘草湯しゃくやくかんぞうとう が第一選択である。速効性があり、ゴルフのプレー中であっても、服用すれば10分で効果が表れる。たちまちつえが要らなくなることから、“ 去杖湯きょじょうとう ”とも呼ばれているのだ。しかし、芍薬甘草湯を長期間にわたって連用すると、その成分の甘草が高血圧症や低カリウム血症、浮腫などを引き起こすことがあり、注意を要する。この場合、甘草の含有量が少ない ヨク苡仁湯よくいにんとう を用いるべきである。 私の施設では、繰り返し起きるこむらがえりには、腓腹筋やヒラメ筋への低周波通電療法、あるいは同部にある「承筋」(ふくらはぎの最もふくらんだところ)、「承山」(指をアキレス 腱けん から上に滑らせると最初に止まるところ)といったツボへのはり治療、局所注射を行っている。血液透析を受けている方などでは、深腓骨神経ブロック、腰部交感神経節ブロックなどを選択することもある。

【野菜やフル-ツ、海藻類を】 ご自身で行う応急処置は、寝床のなかであれば、膝を伸ばして足の親指を手前に引っ張ることである。承筋、承山を指で強く押さえてみるのもひとつの手だ。加えて、蒸しタオルで温めることも有用である。 日常においては、カリウム、カルシウム、マグネシウムを補給しておくために、野菜やフル-ツ、海藻類、小魚、牛乳などをバランスよくとるように心掛けることである。偏食はいけません。スポ-ツを始める前には準備運動を、プレー中にはスポーツドリンクなどによる水分と電解質の補給を励行すべきことは言うまでもない。 同じような症状に、ドパミン(神経伝達物質であるカテコールアミンの一種)の不足で起きる「むずむず脚症候群」があるが、この場合には、つったように感じるものの、筋肉は収縮していないので、触ってみても筋肉は硬くなっていない。また、関連する病気として「全身こむらがえり病」(別名「里吉病」)がある。この病気は9~15歳の若い方に発症し、全身の筋肉の痙攣に加えて、脱毛、下痢などを生じる。原因は不明だが、筋 弛緩しかん薬のダントロレン(ダントリウム)やバクロフェン(リオレサール)の内服が有効である。