本作は風野真知雄『耳袋秘帖』シリーズからの一編。タイトル中にある「殺され村」からは何となく横溝正史作品にあるような閉鎖的な村を連想してしまう。しかし実際には「村」ではなくて見世物小屋の演題である。


ところが読み進めていくと、大掛かりな仕掛けや、残忍な手口による殺し、歪んだ性向など、やはり横溝正史あるいは江戸川乱歩の作品を彷彿するものがあった。


これは同シリーズの他の作品からも窺えることで、例えば「南町奉行と餓舎髑髏」では密室での集団バラバラ殺人が起こっており、「南町奉行と逢魔ヶ刻」では顔が後ろを向くほど曲げられるという猟奇的な殺しが行われている。


風野真知雄作品のファンは50代以上が多いと、風野さん自身が何かのインタビューの中で話していた。

50代以上ということは、思春期に横溝正史や江戸川乱歩の作品を、活字なり映像化されたものなりで触れた人が私も含め少なくないのではないか。その辺りを意識して執筆したかどうかは分からないが、少なくとも私自身には懐かしく響いた。


また、これが現代小説だと刺激が強すぎる点にも着目したい。時代小説という、夜の闇がいまよりも深かった頃を描いた作品だからこそ、ワンクッション置いた形で楽しめるのであろう。


さらに本作の最後には、今シリーズ、いや前シリーズから待ち望んでいた幸せな知らせを聞くことができる。暗くなりがちな題材を用いながらも、その中でこうした演出があることも、この耳袋秘帖シリーズの魅力の一つであるに違いない。


ということで、今夜はこの辺で。


※補足


主人公の南町奉行・根岸根岸肥前守鎮衛(ねぎし・やすもり)は実在の人物で大岡越前や遠山左衛門尉景元と並ぶ名奉行と言われている。


また彼の書いた随筆「耳嚢」は、公務の合間に来訪者や古老から聞いた奇談、怪談、世間の噂話、武士や庶民に関する逸話などを書き留めたもので、こちらも実在のものである。


本シリーズでは「耳嚢」をモチーフに、その内容が多数引用されている。中には書かれてある当事者や関係者である人物に会いに行ったり、その謎を解いたりと、巧みにフィクションを織り交ぜる手法が取られている。


不思議な話には裏があり、人間の悪意が隠されているというスタンスだ。怪談要素はあるが、その謎に挑む捕物帖である。


ちなみに本作「南町奉行と殺され村」に関しては「耳嚢」からの引用が無い。シリーズ中、大変珍しい作品である。


本シリーズは長期に渡り書かれており、その中で「殺人事件」「妖談」「凶四郎」「南町奉行」と今のところ四つのシリーズに分かれている。ただ、間近の「南町奉行」シリーズが完結したので、次は新シリーズが始まるのだろう。