「あ・・・ちょっと俺・・・・・・行ってくる!」
 「ブロッケン!?おい・・・どうした――」
 「悪ぃ。すぐ戻ってくるから!」


 夕暮れの、その赤い光を正面に受け去ってゆくソルジャーの背をただ黙って見ていた俺達だったが、ふと我に返った俺は、どうしても確かめたいある一つの疑問の答えを求めてその後を追った。



 キン肉マン・ソルジャー。
 突然俺の前に現れ、そしてここに居る三人をここに呼び寄せた、次期王位継承者候補の一人。


 俺やバッファローマン、そしてアシュラマンといったキン肉マンの仲間に加えて、自分とかつて死闘を繰り広げた元悪魔騎士のザ・ニンジャまでをチームに引き入れようとしている奴の真意は今も分からない。

 未だに謎ばかりな男。しかし偶然垣間見た奴の一面――通り魔の人質となった子供を救出したその一部始終――に、俺達はすっかり魅了されてしまっていた。
 咄嗟の機転に加えて、繰り出した技の切れと破壊力。そして何より、その物静かで高貴な立ち振る舞いの中に、俺達は正当継承者と信じて疑わないはずのキン肉マンが兼ね備える資質以上の“何か”を感じた。


 ―――もしかしたら・・・それより前から既に“それ”を感じていたのかもしれない。だから・・・


 また、今思えば俺達――実際に訊ねた訳では無いので他の三人についての確証は無いが、少なくとも自分は確実に――は、奴が自分の屋敷を去るその背中を見送った時から、既にどうしようも無い程奴の事が気になっていた。


 ―――だから、尾行した。



 突然自分の前に現れた奴を、自ら追い返しておきながらそれでもこうして後を付けたのは、単なる興味でも無ければ、仲間であるキン肉マン達に少しでも有利となりうる情報を得ようとした訳でも無かった。


 ―――理屈じゃない、感情・・・。



 そう。俺達は、魅かれていたのだった。
 その男。ソルジャーという男に。



 そもそも屋敷を去った奴を、そのまま放っておいても全く問題は無かった。


 だが俺は、奴に自分の勧誘を諦めさせるのに十二分なまでの態度――数々の罵声や物を投げつけるような行為――を取ったにも関わらず、気づけば皆に、奴の後を追おうと提案さえしていた。
 そしてその提案に対して、三人の誰一人として異を唱えなかったのも、よくよく考えれば可笑しな事だった。


 ―――それは多分・・・皆も、何かしら似たような想いを抱いていたから・・・。

 ―――そして・・・あの声。


 また自分には、その行動に駆り立て、そして今も奴を追うもう一つの理由――それは自分にとって、実際奴に魅かれる以上に重要なものだったのだが――があった。



   “行け。”



 ただ一言。
 またあの声が聞こえてきたのだった。






 「待て・・・待ってくれ!」


 石畳を走る俺の靴音に一瞬立ち止まりこちらを振り返ったソルジャーは、しかしすぐまた背を向けると、再び歩き出した。

 さっきまでと全く変わらない――特に足早になったり走り出したりしない――その歩調に、ひとまず奴に逃げる意思の無い事が分かった俺は、焦る気持ちで荒いだ呼吸を整えるべく、奴の体に自分の手が届くよりやや手前で一旦足を止めた。
 そして一度大きく息を吸い込むと、改めて早足で奴に歩み寄りその肩を掴んだ。そして半ば強引に自分の方に向かせた。


 奴の、その鋼のように硬く大きな肩を改めて両の手で掴み直す。


 初めて手の届く距離で相対した奴。その眼はどこまでも深く、吸い込まれてしまいそうだった。


 ―――不思議な眼・・・。


 呑まれてはいけない。
 そう思いながら、必死で奴を睨み付けた。



 キン肉マンとも、リーダーのロビンとも、そして師匠とも違う。
 何もかもを見抜こうとせんばかりの、どこまでも真っ直ぐで、それでいて鋭いソルジャーの視線が、今は自分一人に向けられていた。


 ―――本当に、何なんだろうこいつは・・・。


 未だ名前以外の一切が知れない奴の素生に、ふと興味が向こうとするのを慌てて押し留め、俺は本来の目的である自身の疑問を明らかにする事に専念しようとした。


 「あんたは・・・。」


 だが、自分の身に起きているその不思議な出来事に駆られたこの行動を、そして想いを、一体どう説明すれば良いのか。
 そして、抱く疑問を奴にどう問えば良いのか。


 ここまで追って来たものの、実際何の言葉も準備していなかった俺は、つい黙り込んでしまった。



 案の定、ソルジャーは眉を顰(ひそ)め軽くため息を吐(つ)いた。


 「・・・何だ?」
 「いや・・・。あんたは・・・その―――」
 「その表情では、まだチームに加わる決心がついた様子でもないようだな。ならばもう、私はお前に・・・お前達に話す事は何も無いぞ。」
 「・・・。」
 「私が求めているのは、何の掛け値も損得も無く、私と・・・私の意志と共に戦ってくれる者だ。それに、あれこれ御託を並べるのは相に合わん。」
 「いや・・・。」
 「それに、お前は特にだが・・・。まだお前達には、これまで共に死線を越えた大事な友の力になるという選択肢が残っているのも事実。流石にそれを止める権利は、私にも無いしな。」
 「え・・・あ・・・。」
 「十分とは言えんが、まだ時間はある。良く考えて・・・お前自身が悔いる事の無い答えを出せばいい。」
 「それは・・・。」
 「まあ・・・もちろん。私にはお前達四人全員が、必ず私の下にやってくるという確信がある事も、また事実ではあるがな・・・。」
 「・・・。」
 「じゃあな。日本で、また会おう。」


 身の内の迷いを一瞬で見透かされ、動揺した俺が肩を掴む手を緩めてしまったその瞬間を狙って、ソルジャーの左手が軽く振り上げられた。

 つい放してしまった片方の肩が反転し、再び去ろうとするのを留めるべく、俺は奴の左手に払われてしまった右手で今度は奴の右手首を掴んだ。


 「待ってくれ!違う・・・。」
 「・・・?」
 「俺が追ってきたのは・・・。その・・・違うんだ。」



 背格好自体は、軽量の自分と大して変わらないソルジャー。
 だが掴んだ手から伝わったその力は、そこからは想像出来ない程、とても強かった。